「妖説 源氏物語 弐」の続巻。
光源氏の子、薫は宇治の八の宮のもとを訪れた時に、女房の弁の君から自らの出生にまつわることに関する話があると言われる。自分は光源氏の実の子ではなく、柏木という公家と母の女三の宮の間に産まれたかもしれないのだ。異母兄の夕霧に尋ねたところ、その件に関しては歯切れが悪い。薫は弁の君から柏木が女三の宮にあてた手紙を渡され、柏木と女三の宮の間に関係があったことを知らされる。そして、夕霧からも当時の様子を教えられ、自分の実の父が柏木であることを確信する。薫は陰陽師の白鴎のもとに行き、柏木の霊を呼び出してもらうことにするのだが……。
薫が自分の素性について葛藤する前半と、前巻で登場した猿田大納言の匂宮への復讐が描かれた後半からなる。前巻の感想でも指摘したように、薫の葛藤が作者の共感するものではないために、その切実さが読者に伝わってこないもどかしさを感じる。さらに、猿田大納言の復讐に至っては、魔王と白鴎の戦いぶりなどは派手ではあるが、作者ならではの異様な迫力が感じられない。
作者の書くことへの執念みたいなものが一作ごとに薄れていっているとしたら、これは厳しい。怨念さえ感じられるほどの書くことへの執着が、この作家の持ち味だと思うからである。そういう意味では、このシリーズで作者が「源氏物語」を題材に選んだ時点で、実は失敗だったのではないかと感じられるのである。「源氏物語」の構造そのものを破壊するようなパワーは望めないものなのだろうか。
(2004年9月25日読了)