読書感想文


食卓にビールを2
小林めぐみ著
富士見ミステリー文庫
2004年10月15日第1刷
定価540円

 「食卓にビールを」の続巻。
 主人公は女子高生で人妻でSF作家。福袋を買えば「おばあさんの知恵袋」であって「アドバイスマスター」の資格をとるべく研修中の老婆が現れ、スーパーにいけばペットボトルに入った小さな女性と遭遇し、通信販売で「銀河製造キット」を購入すれば怪しげな生物ができてしまうし、クラブの後輩は自分が戦士であることに目覚め伝説のスネークマスターを探す旅に出てしまうし、行方不明になった異星の王女を探す女官といっしょに王女を探すはめになるし、思い込みの激しい深窓の令嬢らしき女性の恋人追跡につきあわねばならなくなるし、地球の危機に立ち合ってしまうし……。それでも彼女は天然ボケと科学知識であらゆる難関を突破し、大好きなビールを夫とともに飲むのである。
 おとぼけ主人公によるSFコメディの第2弾は、前巻にも増してSFのアイデアがたっぷりつまり、古典SFをモチーフにしたパスティーシュ的な要素もあって、とても楽しいものに仕上がっている。
 それなのに何か乗り切れないなあと、その理由を考えてみると、主人公がどうしても高校生らしくないのである。現役の高校生をじかに知っているから、というだけではない。この時期の若者というのは、まだまだ精神的にも未熟で、感情に流されやすいものがあるだろう。それは、たとえ結婚していても同じことなのではないか。ところが、この主人公は異常なほどに大人なのである。ビールが好きだという理由からではない。言動すべてが落着きはらい、何があっても動じないのだ。だから、どんな大事件であっても緊迫感がない。
 それが作者の持ち味だといえばそれまでなのだけれども、小説の面白さということを考えると、もう少しメリハリがほしくなるのである。SFとしてはユニークでとても楽しいだけに、そのあたりをなんとかしてくれればさらに面白いものになるだろうにと、もったいなく思うのである。

(2004年10月3日読了)


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