「ユリウス・カエサル ルビコン以後[上]」の続巻。
ポンペイウスに勝利したカエサルは、アフリカ北部に残って彼に対する反抗を続ける残党を一掃することに決めた。戦闘のプロであったポンペイウスをなくした残党は、カエサルの敵ではない。巧妙に陣地より誘い出し、味方を勝利に導いた。かくしてカエサルは凱旋する。そして、終身独裁官という地位を得て「皇帝」という地位につくための改革に着手する。機能が硬化した元老院政治を有名無実のものとし、優れたリーダーによって広い領地と属州を統治するという形態に変更しようとしたのだ。それは、太陰暦から太陽暦に暦を変更したことから始まり、次々と現実のものとなっていく。しかし、彼が改革をすすめるほど、彼に対する反発も強まっていく。カエサル暗殺の日が刻々と近づいていたのである。
本巻の焦点は、カエサルによるローマの大改革である。共和政という形態が、金属疲労を起こしていることに対し、かつてスッラなどの先人たちがなそうとしたことを、カエサルは一人でやってのけようとしたのである。それは、実に巧妙に行われた。元老院や護民官を存続させたまま、実際には権限を奪っていくという方法をとったのである。これは長期的な視点にたって、10年ほど後には完全に帝政に移行していくという計画的なものであった。
著者の手になるカエサル像は、決して理想的な人間ではない。しかし、常人とは違う特別の才を持っている。長期に渡るローマ史のいわば主役といってもよいのだから、物語的にはそれでよいのだろうし、実際その通りであるのだからこういう記述でも仕方あるまいと思う。しかし、これではキケロをはじめとする脇役たちの立つ瀬がないではないかとも思う。それとも、ここまでその凄さを讃えておくことにより、暗殺をより劇的なものにしようという意図があるのかもしれない。
カエサルの物語の完結編となる次巻の記述に注目したいところである。
(2004年10月14日読了)