「ユリウス・カエサル ルビコン以後[下]」の続巻。
表題となっている「パクス・ロマーナ」とは「ローマによる平和」の意味である。ローマ初代皇帝となるオクタヴィァヌスの手により、ローマは長期的な安定期を迎えることになる。本巻では、アントニウスを倒してローマに戻ったオクタヴィアヌスが、元老院をたくみに懐柔しながらじっくりと地歩を固めていく様子を描き出している。彼は「アウグストゥス」の称号を得、共和制の建前を守りつつ、自分に権力が集まるように仕向けていく。それは、カエサルが一気に成し遂げようとした事業を、じっくりと時間をかけて現実のものにしていく過程でもある。カエサルには時間がなかったが、アウグストゥスにはたっぷり時間があったのである。
カエサルの生涯が劇的なものであり、かつ人間的にも魅力あふれる人物であったのに対し、アウグストゥスはある意味では面白みのない人物である。また、カエサルにはその人物像を浮き彫りにする資料が数多く残されているのに対し、アウグストゥスには同時代の資料が少なめである。アウグストゥスが成し遂げた業績の方がはるかに大きなものであったというのにも関わらず。
著者はそのようなアウグストゥスの生涯を、綿密に描き出そうと試みる。ここで描かれるアウグストゥスは、確かに面白みはないかもしれないが、興味深い人物であることには違いない。日本史でいえば、徳川家康のような役回りを担った人物といえるだろうが、アウグストゥスは家康以上に慎重であり、狡猾である。
本巻では、アウグストゥスが地歩を固め、種をまく段階で終っている。ここでの事蹟がどのように開花していくのか、興味は尽きない。
(2004年11月8日読了)