「パクス・ロマーナ[上]」の続巻。
本巻では、アウグストゥスの帝国作りの様子に多くのページがさかれている。すなわち、じわりじわりと進む彼への権力集中、そして防衛を基本とした軍備体制の整備である。これにより、カエサルが成し遂げようとしたことのほとんどがアウグストゥスによって達成されたことになる。しかし、事態は重要な人物たちの死によって急変する。軍事方面の片腕であるアグリッパ、外交方面のよき相談相手であるマエケナス。自分の後継者と目していたドゥルーススが、相次いで死んでしまうのである。ドゥルーススの兄であるティベリウスとは、むりやり自分の娘を嫁がせたことにより逆に関係が悪化してしまう。その結果、ティベリウスは引退し、アウグストゥスは「パクス・ロマーナ」の統治を全て一人で背負うことになる。この結果、アウグストゥスの戦略は、大きく方向転換することになる。つまり、カエサルの構想から逸脱し始めるのである。
著者がどう緻密に描こうとも、アウグストゥスの時代には物語としての面白みはそれほど現れてこない。これは致し方ないことではないかと思う。中国史でも平和な時代のエピソードにはあまり人気はなく、三国志演義のような天下がどう転ぶかわからない時代に人気は集まる。日本史でも、戦国時代や幕末に人気が集まる。ローマ史であれば、やはりカエサルの時代が劇的でおもしろいのは当然だろう。それでも著者がこの時代に大きくページをさくのは、ローマ帝国というものの性質を決定づけたのが初代皇帝であるアウグストゥスであるという、その重要性があるからだろうし、彼は彼で元老院との水面下の争いを避けては通れなかったという事実を書き残す必要があるからなのであろう。
いよいよ物語は老境のアウグストゥスに移っていく。片腕を次々と失ったアウグストゥスの行く手を見守りたい。
(2004年11月13日読了)