読書感想文


闘・真田神妖伝
朝松健著
祥伝社ノンノベル
2004年11月30日第1刷
定価1286円

 「忍・真田幻妖伝」に続く第3巻。完結編である。
 野干獣と化した大久保長安は、正の星である猿飛佐助、反の星である柳生佐久夜、合の星である豊臣秀頼を一つに集め、混沌の世を現出させようと目論んでいる。二条城、真田丸、そして大阪城をつなぐ地下の龍脈をめぐり、さらには徳川との戦いの切り札である秘密兵器「治天砲」を持つ秀頼をめぐり、真田幸村、林羅山、天海らが策謀をめぐらす。大坂の陣を前に、徳川家康は癌が悪化し、豊臣憎しの妄執だけで戦いを始める。再び敵と味方に別れた佐助と佐久夜。秀頼の側近でありながら裏切りを画策する大野治長たち。その心の弱味に付け込む野干獣。戦いを左右する「治天砲」の秘密とは。そして野干獣こと大久保長安のどす黒い野望は達成されるのか。
 壮大な時代伝奇小説である。なにしろこの1冊だけで2冊分のボリュームがあり、ページをめくるごとに展開は二転三転する。史実があって、その史実は決して曲げないのだが、それでも先が読めない面白さがある。風聞や伝説を巧みに織り込み、まるでその伝説こそが史実であったのではないかと思わせる巧みさをみせる。
 本書の面白さは、この壮大な物語が一人の男の醜い野望から端を発していることにある。その野望がふくらみ、天下全てを巻き込むように大きくなっていく。その過程が徹底的に書き込まれている。歴史というものは、実はそうしたものかもしれない。そういう意味では荒唐無稽な物語ながら本質はきっちりと押さえているということになる。実は物語というのはそうでないと面白くないものなのだ。単に派手な忍法合戦や秘術の応酬をくり出すだけでは本当に面白いものにはならない。本書は今さらながら、そのことを教えてくれる。
 時代伝奇小説の傑作がここにまた一つ誕生した。全3巻一気読みをお薦めしたい。

(2004年12月5日読了)


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