「パンドラ 上」に続く完結編。
〈パンドラ〉の本体は流星群のあとに現れた彗星であった。〈パンドラ2〉と名づけられたその彗星の尾が地球をかすめる時に、地球の〈パンドラ〉化が完成するのである。それを阻止するため、宇宙機を飛ばして〈パンドラ2〉を破壊する計画が国際的に進められる。朝倉や汐美も宇宙に出てその計画のスタッフとして働くことになる。しかし、計画に参加する各国の思惑がいりまじり、計画はスムーズに進まない。〈パンドラ2〉の尾が地球をかすめるまでほとんど時間はない。予定されていた宇宙機が完成しなかったり、中国が抜け駆けをはかったりというアクシデントが起きる中、朝倉は日本の宇宙機〈きりしま〉で〈パンドラ2〉に最接近する。しかし、〈パンドラ2〉も自分の意志で計画を妨害してくる。朝倉の研究者仲間であるジャミイは〈パンドラ〉たちとの共生を訴えるが、動き出した計画の前にその声は届かない。地球の運命は、そして〈パンドラ〉の意志は……。
下巻にはいると、舞台はほとんど宇宙になる。そこで行われる作業の描写のリアリティは作者らしく綿密なもの。緊迫感あふれる展開と、地球の危機に際してもくりひろげられる国際間でのエゴまるだしの主導権争いは、いかにもありそうなことである。
ただ、主人公たちがみんな宇宙に出てしまうせいで、その間の地球での〈パンドラ〉化の進行状況などが全くわからなくなってしまっている。そのため、上巻と下巻ではなにか違う話を読んでいるような感じになってしまった。宇宙での描写をもう少し刈り込んで、地球の状況を並行して追うという展開であれば、全体に統一感のあるものになったのではないだろうか。物語のスケールの大きさやテーマの扱い方などがみごとなだけに、その点のみ惜しく感じられる。
これまでにない「ファースト・コンタクト」SFである。これだけのテーマを細密な描写で描きあげた。その力量に圧倒されてしまうのである。
(2004年12月30日読了)