読書感想文


血脈 中
佐藤愛子著
文春文庫
2005年l月10日第1刷
定価800円

 「血脈 上」の続巻。
 佐藤洽六の四男、久は仙台で心中し、早世する。中国大陸で日本は戦争を始める。シナは冷ややかな目で世相を見ている。三男の弥は兵隊となり戦地におもむき、次男の節は雑文を書いたり新聞や雑誌の編集を手伝ったりなどしてなんとか生活している。やがて戦況は悪化、長女の早苗、次女の愛子がそれぞれ嫁ぎ、甲子園の洽六の家は寂しさを増していく。少年倶楽部の編集者の態度に腹をたてた洽六は少年小説と訣別するが、洽六の老いた感性では新しいものはもう生み出せなくなっていた。シナは甲子園の広い屋敷に洽六と二人でいることにやりきれなさを感じ、二人して静岡に転居する。そして、敗戦。洽六は老いてかつての意気は全くなくなっていく。節は広島で原爆の被害にあい、死亡。弥は戦死。しかし、長男の八郎は、戦後は「リンゴの唄」のヒット、ラジオ「話の泉」のレギュラーとなって一躍売れっ子に。老耄の洽六はシナとともに八郎の家にやっかいになる。老いた洽六に対し、突き放そうとしても突き放し切れないシナであった。
 かつての栄光を心に残したまま老いていく洽六の様子と、愛情か因縁かわからぬが洽六との生活を続けていくシナの心境が、表に出ない静かな争いとして描かれていく。その筆致に凄味を感じた。
 娘の早苗と愛子の結婚生活もしかり。作者が自分のことを突き放して見る視点もまた、本書の凄味を際立たせる。家族とは何か、血縁とは何か。女とは、男とは。様々な問題を読み手に投げかけながら、この修羅の元凶たるべき洽六は死を迎える。渦の中心が八郎に移っていく下巻の展開を、こわごわと、そして楽しみにしつつ本巻の頁を閉じた。

(2005年1月19日読了)


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