読書感想文


復活の地 I I I
小川一水著
ハヤカワ文庫JA
2004年10月31日第1刷
定価760円

 「復活の地 I I」の続巻。
 レンカ帝国の帝都を襲った地震の原因は、〈星代〉に人類が作った衛星型の兵器であった。しかも、その兵器は再び帝都に地震を起こすという。その情報を受けたセイオは、第二次震災に備えて手を打つことにする。ただし、復興院を骨抜きにされた以上、権力を持ってしてそれを実行に移すことは不可能である。そこでセイオは、信頼できる仲間を集め、帝都の住民たちが自然に災害に備えるように少しずつ、それとなく導くという方法をとった。一方、首相サイテンは、第二次震災の際に列国がレンカを襲うことと、その際に皇室を廃止して自分の独裁体制を固めるために、その情報を極秘にする。都民たちが知らず知らずのうちに災害に備え、民間での協力体制を作り上げた時、摂政スミルは、正しい情報を都民に告知し、摂政親政を表明する。それに対してサイテンは非常時戒厳令をしいて陸軍の力をもって一気に退勢を挽回しようとする。やがて、予測通りに地震は起こった。しかも、前回とはまた違う地区にもその被害を及ぼす。列強の介入、サイテンと陸軍の暴走。セイオたちの努力は報われたのか……。
 震災に対する対処が、実に理想的に展開されていく。サイテンの遠大な計画も、目の前の災害に対応できるものではない。サイテンたち政府首脳が、意識して何もしないという非を、作者は民心の離反という形で弾劾する。
 ただ、ここにきて、私は違和感を覚えずにはいられなかった。本書は最後の最後で「防災の教科書」になってしまうのだ。
 むろん、作者の意図は防災に対する意識を高く持つべきであり、政府は非常時には民意のみに殉じるべきだというテーマがしっかりと貫かれている。そこは高く評価したいのだ。
 が、震災という窮地における人間の醜さを描き出してきた前巻までと違い、本書はうまくいきすぎるのである。人間を信じるという理想が、作者にはあるのだろう。しかし、その理想と現実がせめぎあっていたからこそ、この小説は面白さが増したのである。結末として、その理想を全面に出してしまったことで、そこまでのせめぎ合いの意味が薄まってしまったように感じられてしまうのである。
 それならば、セイオとスミルの関係をもっとドラマチックに描いてもよかったと思う。しかし、ここではそういう演出は、作者にとっては不要と感じられたのだろうか。
 そういう意味では、本書はもっと凄い作品に仕上がる可能性があったと思う。このままでも十分すぐれてはいるのだが、詰めの甘さが気にかかる。ここまでもってきたのだから、やりようはあっただろうに。そこが惜しい。実に惜しい。

(2005年2月13日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る