読書感想文


炎立つ 壱 北の埋み火
高橋克彦著
講談社文庫
1995年9月15日第1刷
定価602円

 「火怨」に続く東北三部作の第二部。
 本巻は、前九年の役の前夜といえる時期を描いている。陸奥守藤原登任と彼に仕える藤原経清は、奥六郡を治める豪族安倍頼良の次男、貞任の婚儀に招かれる。頼良は金に汚い登任をもてなすために、自らの財力を見せつけ、金の杯などを引き出物として贈る。しかし、登任は、これを見て奥州の権益を自らの手に握りたいという野望を抱く。経清は京に送り込まれ、奥州討伐の許可を得るための工作を命じられる。彼は都で、源頼義と義家の親子に出会い、その武勇を認められる。奥州攻めのために都から平繁成が送り込まれ、登任は安倍氏への攻撃を発令する。安倍氏の実力を知る経清は、なんとか戦を避けるべく、親友の平永衡に策を託す。永衡の策を受けた安倍の陣では、賛否両論のままなかなか策は決しない。そこに立ち上がったのが、貞任であった。かくして、平穏であった陸奥の地は、激動に巻き込まれていくのであった。
 東北の歴史は古く、物語も多いのだと思う。しかし、常に敗者の立場に立たされてきたため、その魅力はなかなか伝わってこない。作者が「前九年の役」「後三年の役」、そして奥州藤原氏の栄華と没落をテーマにとったのも、中央の正史に黙殺されてきた東北の歴史に正しく光を当てようとする試みなのであろう。
 アテルイの死後、朝廷に服従しつつ実力を蓄えていわば独立国家なみの平穏を手に入れた陸奥の民だが、その豊かさは、「俘囚」と蔑まれる屈辱に耐え続けて手に入れたものなのである。しかし、実態を伴わない蔑視は、あなどりにつながる。あなどりは、しっぺ返しを食らうと同時に、怨念に転化する。本巻では、中央からの国司のあなどりとしっぺ返しまでが描かれている。怨念がどのように逆襲につながっていくのか。次巻の展開が楽しみである。

(2005年2月15日読了)


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