「炎立つ 壱 北の埋み火」の続巻。
陸奥守に源頼義が任官してくる。前任の藤原登任とは違い、本物の武士である。安倍頼良はその実力を知るが故に、事を荒立てぬように腐心する。藤原経清もまた、頼義が陸奥に戦を仕掛けてこないように中に立つ。経清は頼良の娘、結有をめとり、安倍一族に連なることになる。金売り吉次の策により、朝廷が大赦を発令し、すんでのところで戦は避けられた。さらに、頼良は頼義と音が重なるという理由で頼時と改名までして次の戦を避けようとする。一時は戦をあきらめようとした頼義であったが、家臣の献策により、言い掛かりのような形で安倍貞任を陥れ、開戦に持ち込む。安倍氏を敵として戦うことになった経清であるが、初戦の敗退を平永衡の裏切りのせいにして彼を殺してしまうという頼義のやり口に耐えられず、ついに安倍氏のもとに走ることにした。頼時が一族でありながら頼義についた安倍富忠を打つ途中で戦死。頼義は貞任の裏をかいて厳冬の季節に一気に攻撃をかける策に出た。この奇襲に対する貞任と経清のとった戦法は……。
源氏の棟梁として武名を朝廷にとどろかせ、わが子義家に陸奥の地を与えたいという頼義の執念。そして、それに対しあくまで力を蓄えて朝廷から独立しようという安倍氏の心情が、最初は表に出ることのない暗闘として描かれ、ついに火蓋が切られるまでの緊迫感に引き込まれていった。
東北という厳しい条件の土地で独立した楽土を築くまでには、様々な試練が待っている。そして、「前九年の役」の前半を描いた本巻では、その試練はまだまだ始まったばかりなのである。作者は戦いの推移をどのように展開させていくのか。本書を読みおえると、すぐに次巻に手をのばしてしまいたくなる力がある。
(2005年2月16日読了)