読書感想文


終の神話・人祇の章
封殺鬼 28
霜島ケイ著
小学館キャンバス文庫
2005年4月1日第1刷
定価638円

 「終の神話・地号の章」に続くシリーズ第28巻。完結編である。
 天狗・庄間一哉の異界にとらえられた弓生と聖は、それぞれ別な空間で心の弱味に付け込むような幻影を見せられていた。2人を助けるべく成樹は四鬼をとばす。成樹の前に現れたのは、大天狗秋葉三尺坊から庄間の呪を破る手がかりを教えられる。三吾と佐穂子はそのヒントから呪を破る方法を導きだし、「本家」の術師を動員して異界への道を開く。聖は胎内の夜刀神の力も借りて庄間の術を破る。三吾らの尽力で呪がほどけたため、庄間の力は半減、ついに長い間苦しめられた天狗を倒すことに成功した。そして、天津甕星を封じるための儀式を始めるところまでこぎつける。命を懸けて行われる儀式。その結果は……。
 12年にわたって続けられたシリーズがとうとう完結した。特に天津甕星と天狗をめぐるエピソードが始まってからというもの、多数の登場人物が入り乱れ、じっくりとていねいに書き込まれた物語が続いていただけに、この完結は嬉しい限りである。
 何が嬉しいか。それは、このスケールの大きい物語をちゃんと論じることのできる喜びである。完結していない物語を論じるのは難しい。未完で終ったならば、未完で終ったところで論じることもできる。しかし、まだ続きが書かれることがわかっている物語をどのように評価するか。それは実に難しい。これで、私はこの長大なシリーズに対して、多くのみなさんにこうお薦めすることができる。
 「封殺鬼」は伝奇小説の傑作である。細かいことはいわない。とにかく読みなさい。嘘はいわない。
 神、鬼、神話、伝説、シャーマンとしての「宮中」……民俗学の様々な要素を実にうまく組み込み、「鬼」と人間のかかわりや「神」と人間のかかわりをテーマにすえ、人が生きてあることの喜びも哀しみも怒りも憎しみも幸福もすべての感情を生き生きと描き出している。
 と簡単に書いてしまうようなものではないのだ。機会があれば、きちっとした「封殺鬼論」を書きたいと思う。
 さて、これだけの大仕事を終えた作者が、次はどのような作品を生み出してくるのか。本シリーズの外伝も読みたいが、構想を新たにして、そこにこの2人の鬼がゲスト的にからんでくるというようなものだと楽しかろうなあ。
 作者に感謝と慰労の意味をこめて拍手を贈りたい気分である。

(2005年2月27日読了)


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