読書感想文


ばとる・おぶ・CHUCHU 最後の闘い
一条理希著
集英社スーパーダッシュ文庫
2005年2月28日第1刷
定価590円

 「ばとる・おぶ・CHUCHU わたしのあなた」に続く、シリーズ第5弾。完結編である。
 吸血っ娘との戦いで破損の激しい聖白百合学園。破損したのは建物だけではない。戦いの経験に乏しい中等部の乙女たちはすっかりおびえてしまい、次の戦いでは戦力にはなりそうにない。そこに現れたのは、ゆかりの父。吸血っ娘に2000人の男性を送り込んで永遠の愛を誓わせればゆかりたちは戦わなくてもよいだろうという考えである。吸血っ娘篭絡作戦が実行されている裏で、園長は刀鍛冶の朱堂紅に依頼して『沙羅』を上回る刀を作らせようとしていた。しかし、刀には愛するものを想う人間の魂が入らなければならない。正太郎を愛するあいは、戦いに勝利するために自らを犠牲にして炉に飛び込む決意をする。そのことを知った正太郎は、自分もあいとともに刀の中に入ろうと決める。新しい刀は完成するのか。乙女たちと吸血っ娘たちの最後の戦いの結末は……。
 愛しあう二人の心が、吸血っ娘の心を動かすという筋立ては、どの登場人物も真の悪としたくないという作者の思いがこもっているのだろうか。吸血っ娘たちへの愛着すら感じさせる展開となっている。
 シリーズ全体を通してコメディ仕立てになっているせいか、本来ならもっと強調されてもいい吸血っ娘の孤独感や、あてどなき戦いを続けるために育てられた聖白百合学園の乙女たちの自己の存在への疑問などは表に出てくることがない。しかし、どんなにコミカルな作品であろうと、〈戦い〉をテーマにしている以上、シリアスな展開はつきものであるし、そういった登場人物の心情をもっとえぐることも可能だったと思われる。作者にはそれを描き出す力はあるはずだ。
 特に、吸血っ娘の描写に力が注がれるようになってから、聖白百合学園側の登場人物の存在感がいくぶん薄くなった感がある。ここらあたりが集団ドラマの難しさだろう。
 とはいえ、書きようによっては救いのないものになってしまうだろうこのアイデアを、楽しく可愛らしいコメディに仕立て上げるというのは、けっこう難物であるはずだ。その点については成功しており、作者のセンスのよさがうかがえるシリーズとなったと思う。

(2005年2月27日読了)


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