読書感想文


攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 眠り男の棺
藤咲淳一著
徳間デュアル文庫
2005年2月28日第1刷
定価648円

 士郎正宗原作の人気アニメーションの脚本家が、アニメーションの設定をもとに執筆したオリジナル・ストーリーで「攻殻機動隊 凍える機械」に続く第3巻。
 新浜市内で、謎の殺人事件が連続して起こる。犯人は、被害者が最も愛していた者で、突如電脳に変調をきたし、被害者の首筋に噛みついて頚動脈からコンピュータウイルスを注入し、被害者の電脳を無効化してしまったという。公安9課の草薙素子は、次に狙われると予想される代議士伊田蔵の邸宅に行く途中で、一人の少女を車で轢きそうになる。なんとか助かった少女に彼女が手を差し伸べると、少女は突如牙をむき草薙の首筋に噛みつこうとした。少女の電脳もまたウイルスに冒されており、記憶を失ってしまっている。彼女と接触した人物の中から怪しい男を探り出し、その男の記憶を調べると、その中に「荻窪すずらん南商店街」という場所の情景が見つかった。その場所を調べることが解決につながると判断した草薙は、水没した旧首都東京へ単身で捜査に向かう。廃虚の中に残された町で彼女が出会った人物とは……。
 本書では〈吸血鬼事件〉の解決というミステリ的な要素と、電脳化された世界でネットワークに頼らず戦わなければならない草薙素子を描くSFアクション的な要素がうまくブレンドされている。特に、電脳を無効化するウイルスは、愛情という感情を憎悪に変えるというシステムを働かせるのだが、そこらあたりの着目点が面白い。愛憎という言葉もあるように、愛情と憎悪は表裏一体である。愛情が裏切られるとそれが深ければ深いほど、憎悪は激しいものとなる。それを人為的にコントロールすることができたならば……。幸福は一転して不幸へと転化する。
 タチコマのファンへのサービスも行き届いており、本編もぜひアニメ化してほしいエピソードである。特に視覚を失った素子が他の者の〈目〉を使って戦う場面など、どのように映像化されるだろうか。想像してみるだけでも楽しいのである。
 ただ、そう考えてみると、このシリーズはアニメ化可能なものばかりなのだということにも気づかされた。映像化できそうにもない、小説ならではというようなエピソードも読んでみたいものだ。

(2005年3月2日読了)


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