「皇国の守護者 8 楽園の凶器」に続くシリーズ第9巻。
守原家のクーデターに対し、新城直衛とその腹心たちは自分たちが近衛部隊であるということを根拠に、一気に皇宮に入って守原軍を倒す策をたてる。天龍によって上空から皇宮に運んでもらうという奇策が成功し、近衛部隊は次々と守原軍を倒していく。しかし、激しい戦いの中で、一人の精神錯乱者によって最も愛する人々が命を奪われていっている事実を新城はまだ知らなかった……。
本巻で守原軍のクーデターに関するエピソードに決着がつく。戦闘シーンや戦術の描写の迫力は、さすが作者というところである。また、政治的な駆け引きへの目の配り方も行き届いている。
ただ、多数の登場人物が入り乱れる中で、あまりにも描写の視点が動きすぎであるというところに、全体を把握しにくいという難点を感じる。これだけこみいった展開をするのだから、新城だけの視点で描くだけでは全体の動きはわかりづらくなるだろうが、全くの端役の視点で描かれる部分などが挿入されると、読者には逆に「木を見て森を見ず」というような状態に置かれてしまうのではないだろうか。せめて主要人物3人程度の視点にとどめておいてくれないと、物語がどう動きどう進んでいるのかがわかりにくくなってしまう。
これまでのあらすじや登場人物一覧がついていればまだそれを頼りに読み進むこともできるのだが、そういったものがつけられていないのは読者に対して不親切であるように思う。
今後は、政治的な権謀術数が展開の中心となることが予想されるだけに、そこらあたりがもう少しわかりやすくならないとさらにややこしくなってしまうのではないかと危惧するのである。
(2005年3月4日読了)