「炎立つ」につながる陸奥三部作の完結編にあたる大河歴史長編である。
時は戦国時代。安倍一族に連なる安東愛季と源氏につながる南部晴政がにらみ合いをし、それを葛西、最上、伊達らが見守るというのが当時の東北の情勢であった。南部一族の支流である九戸政実は、戦略戦術に長け器量も抜群であったが、戦国の世にあっても血統のみをたよりとする南部氏の中では獅子身中の虫とみなされていた。政実は弟実親を晴政の婿に入れ、ゆくゆくは本家をリードしようと考えていたが、晴政は年老いてからできた幼い嫡子の晴継を後継者としようとし、一族内に内紛が起こる。戦国時代に一旗揚げたいという野心を持つ政実は、このような内紛を繰り返す南部一族に愛想を尽かしかけていた。しかし、自分が立つためにも南部氏は一枚岩になってもらわないと困る。果たして政実はその実力を発揮できる機会に恵まれるのか……。
戦国時代に器量を持ちながら正当に評価されていない武将を主人公にすえ、蝦夷の血をひくものの意地をテーマとした大河小説の開幕である。信長や秀吉ばかりが戦国の勇者ではなかった。同等の力を持ちながら、機会に恵まれない者があった。そして、それは東北という風土と密接に関係している。蝦夷にこだわりつづける作者ならではの戦国小説である。伊達政宗も一目置いていたという「北の鬼」の真実がどう描かれていくのか。
陸奥という地にあって、焦りを感じる政実の心境が痛いほど伝わってくる。それは、これだけの人物がいながら、一般には知られていないということに対する作者のじれったい思いを表現したものでもあるだろう。政実の実力とはどのようなものか。次巻以降の展開が楽しみである。
(2005年3月17日読了)