「天を衝く(2)」の続巻。完結編である。
九戸政実は豊臣秀吉に対して喧嘩を売ることを目的に南部信直を攻め、居城を奪い取る。そして、二戸城に籠城をし、準備万端整えて2万の豊臣軍を待ち受ける。信直は豊臣軍の蒲生氏郷、そして浅野長政とともに二戸城を包囲する。政実の実力を知らずに侮った氏郷は無為無策のまま城攻めを繰り返し、敗退を重ね続ける。連戦連勝の九戸党であったが、政実は氏郷の背後にある豊臣秀次の援軍の襲来を見越し、籠城している兵をいかに死なさずに降伏するかを考え始める。政実の実力と考え方を理解する津軽為信と浅野長政は、なんとか和議に持ちこみ政実を秀吉に合わせてその命を救わせようと考える。しかし、秀吉の自分に対する心証のことしか考えていない氏郷は、2人がなんとか成立させた和議を逆手にとり、九戸党を根絶やしにしようと考えていた。地方の一武将が天下人に売った喧嘩の持つ意味とはなにか。政実の思惑は成功するのか。
武士の意地、横車を押す者に対する身を持って示す抗議など、九戸政実の籠城にここまでの意味をもたせたのは、ひとえに作者の執念といえるのではないだろうか。例えば戦国武将名鑑みたいなものでは政実は「家督相続問題で謀反。豊臣家の介入により鎮圧」程度の紹介しかされていない。
作者は九戸政実を通じて、東北人の意地というものを示そうとしたのだろう。そして、それはアテルイや藤原経清や藤原清衡、そして藤原秀衡を描いた視点と全く変えることはない。政実という人物をこれらの人物の遺志を継ぐものとして描くことにより、古代から中世へと続く中央の東北支配とそれにあらがう者たちの系譜を形作ったといえる。
どうしても主人公に対する美化が強いという難点はあるものの、一地方武将に託した思いがそれだけ強いのだと見ることができる。政実の戦略が優れていればいるほど、それを力で圧した中央権力への批判の強さが明確になっていくのである。
(2005年3月19日読了)