「陰陽寮 八 王都炎上篇」に続くシリーズ第11作。
刀伊軍が京に入り、内裏は徐福たちが占拠している。一条天皇や藤原道長たちは大和に脱出し、息をひそめている。徐福にとらえられた兵呂須と藻波は復活した晴明と寿宝の助力により、獅子王と蛇々丸によって助けられ、藻波の探し出した神薬の効力により、紫苑も救われる。シヴァとムンクは少しずつ対立するようになり、麗門は少女マユを大切に思うあまり、徐福の思うようには動いてはくれない。大和では、都のことを何も知らされていない一条天皇に、杏奈が事実を教えてしまう。道長は将来入内して自分の娘のライバルになるかもしれない杏奈のことを邪魔に思い、抹殺することを考え始める。
都の事情と大和の事情を並行して描写し、複雑な人間関係が織り成すそれそれの感情の揺れが物語を少しずつ動かしていく。本巻は完結編に向けて動く重要な一冊だけに、これらの人間関係が大団円に向けてどのような影響を及ぼすのか、先が見えない展開となっている。
史実を完全に無視しているわけでないことは、道長が彰子を入内させようとしているがために杏奈を警戒するというようなところにあらわれている。そういう描写を入れてしまうから、よけいに史実を無視した刀伊の王都占領という設定に無理があるように感じられてしまうのである。複雑な人間関係をもつれさせることなく描き出す力量があるのだから、こういう無茶をしないでも史実に従って刀伊との戦いの舞台を九州に持っていくことは不可能ではないと思うのだが。ただ、刀伊が京に侵入しないと成立しない展開になっているから、作者の意識下ではこの程度の歴史改変は必然なのかもしれない。伝奇小説ファンとしては、そのバランスの悪さみたいなものにやはりこだわってしまうのである。
(2005年6月7日読了)