「パクス・ロマーナ[下]」の続巻。
アウグストゥスの死後、ローマ皇帝の座を継いだのは直接血のつながっていないティベリウスである。彼は元老院にはかり、慎重に慎重を重ねてプリンチェプスの位につく。また、ゲルマンとの国境線に後継者であるアウグストゥスの孫ゲルマニクスと自分の息子ドゥルーススを派遣し、将来元首にふさわしくなるようにと実績を積ませる。しかし、ゲルマニクスもドゥルーススも若くして亡くなり、ゲルマニクスの幼い息子カリグラに後を継がせるには時間が足りない。ゲルマニクスの未亡人アグリッピーノはなんとかカリグラに皇位を継がせんと画策を始める。
後世の歴史家タキトゥスによってまるで無能のように酷評される二代目皇帝ティベリウスの事蹟を、著者は丹念にすくいあげ、再評価してみせる。カエサルのような華もなく、アウグストゥスのような知謀もないかわりに、ティベリウスは常に正攻法で先人の業績をしっかりとしたものに固めていく。それも辛抱強く、自分を神格化させないように、そして公平に。
私もサークルなどで経験しているけれど、先輩が作り上げた素晴らしいものを、その価値を落とさずに続けていくことがどんなに難しいことか。ティベリウスはそれをやってのけただけでなく、自分以降に引き継いだ者がやりやすいようにレールをきっちりとひくのである。地味ではあるが、無能な人間にはとてもできないことをやってのけた人物、それがティベリウスだと著者は強調している。その人間観察眼の確かさに敬意を表したい。
なぜティベリウスが後世の歴史家から非難を浴びなければならなかったのか。次巻以降でその理由は明らかになるのだろう。
(2005年9月8日読了)