「悪名高い皇帝たち[一]」の続巻。
帝政ローマに磐石のシステムを作って後代に引き継いだティベリウスが不人気であるのは、ゲルマニクスの未亡人アグリッピーナ派の一掃と、自分の手足となって働いた男セイアヌスが実は自分の息子ドゥルーススの未亡人リディアとドゥルーススの生前から不倫をしていたことを知ってからの徹底的な粛正にあったのである。しかもその後もティベリウスはカプリ島から一歩も出ることなくローマに不在のまま統治を続けた。そのためティベリウスの姿は緊縮財政のもと娯楽を失っていたローマの庶民からは全く見えず、またティベリウスの発した議案をただ認証するだけの地位でしかなくなってしまっていた元老院議員たちの不満も高まってしまう。77歳の高齢で死去したティベリウスの後継者は、わずか24歳のわかいカリグラであった。アウグストゥスの孫であるというだけで、政治のなんたるかを理解していなかったこの若い皇帝は、ティベリウスが残した財産を、人気取り政策の剣闘大会や馬車レースの開催などですっかり使い果たし、しかも自らを神格化することを強要するなどの虚栄心だけは肥大し、ついには自分を警護するための近衛兵によって殺害されてしまうのである。
本巻では、大衆と統治者の関係ということについて考えさせられる全く対照的な2人の皇帝が登場する。大衆に迎合することを嫌ったため実績よりも低く評価されてしまうティベリウスと、大衆の人気を得ることのみに心を砕き結局国庫を破綻させてしまったカリグラ。しかし、ティベリウスの固めた統治システムは、カリグラのような凡愚な人物が皇帝となっても、ローマの支配そのものまで破綻させてしまわなかったのだ。そこにティベリウスの凄味を感じる。
父や兄たちが早世したおかげで皇帝の座がめぐってきた若者に欠けていたのは、本人の資質もさることながら、自己中心的な母親を見て育ったために与えられなかった帝王教育の機会だったのかもしれない。
そして、まさに晴天の霹靂のように皇帝の位につくことになってしまった55歳の年老いた新皇帝は、破綻した財政の建て直しにどのような手腕を発揮したのか。それは次巻で明らかになるだろう。
(2005年9月9日読了)