「悪名高い皇帝たち[四]」の続巻。
皇帝ネロが死んだ後、いわゆる〈軍人皇帝時代〉がおとずれる(著者はこの言葉は使用していないが、高校世界史の教科書ではこう呼んでいる)。ネロにかわって元老院が皇帝に推したのはスペイン属州総督のガルバであった。しかし彼は自分が皇帝になれば皆が黙ってついてくるとでも考えたかローマに戻る時期が遅かった上に兵士たちへのボーナスも渋って出さず、人心は一気に離れていった。この結果、ゲルマニウム軍団を率いるヴィテリウスが皇帝の座に名乗りをあげ、近衛軍団を率いるオトーがガルバを殺害する。元老院が続いて推したのはオトーであった。これに対し、ヴィテリウスは反乱を起こし、ローマは内乱状態に陥る。この内乱では目覚ましい戦いをする戦術家も知略謀略にたけた戦略家もおらず、ローマ人同士が無駄に血を流すという結果に終ってしまい、より死者を多く出したオトーの敗北となる。オトーは自死し、、ヴィテリウスが皇帝の座につくのだが、彼はオトーの支配下にあった軍人たちを冷遇するなど戦後処理を過ち、なんら有効な手を打てぬままにヴェスパシアヌスの包囲網形成を許し、ローマ市内での内戦を招き、名将ムキアヌスの前に敗北し、何もできぬままに死を迎えるのであった。
これだけ激しい内戦が続き、1年の間に皇帝が3人も入れ代わるという事態であっても、ローマの統治そのものはびくともしなかった。混乱をものともしないシステムを、アウグストゥスをはじめとする帝政初期の皇帝たちが作り上げていたということなのである。
この時期について、高校世界史の教科書は詳述を避けているので、私はほとんど白紙の状態で本書を読んだ。確かに愚かしい人物が次々と帝位については去っていくという時期で見るべきものはないかもしれないが、それだけ人間というものの哀しさやおかしさアホらしさというものがくっきりとでるということもいえるわけで、〈軍人皇帝時代〉と一言で終らせず、この時代の意義というものを考える材料くらいは教科書に記してもいいように感じたものである。
(2005年10月2日読了)