「遠き雪嶺 上」に続く完結編。
インドに着いた立教大学山岳部ヒマラヤ遠征隊は、通訳の日本人広瀬や、案内人のヌルサン、トップゲイ、アンツェリン、そして多数のポーターたちとともにナンダ・コートの麓に到着する。ベースキャンプを確定し、第1キャンプ、第2キャンプと場所を確保していくが、たびたび悪天候に悩まされ、思うように登山ができない。しかも料理人であるトップゲイが病に倒れてしまう。当初は山頂まで同行する予定ではなかった竹節は、自分と他の隊員たちの立場の違いなどから思い悩むのだが、堀田隊長は竹節とアンツェリンも山頂までいっしょに行くことを決定する。しかし、苦心して確保した第4キャンプで、今度はアンツェリンが発病してしまう。5人でなんとか登攀をはじめたものの、悪天候で一度は登頂を断念する。日程の都合で、山頂に再アタックできる機会はあと一度だけ。遠征隊の最後の挑戦が始まる……。
昭和10年代という時代に、ヒマラヤという登山家たちの夢の場所に挑戦した男たちの、極限の姿が、今目の前で行われているかのように描かれている。作者ならではの迫真の登山描写が本書でも最大限の効果をあげている。
ナンダ・コートの山頂に立ったメンバーたちの喜びが、まるで自分のもののように感じられるのである。それは感動などという手垢のついた言葉ではあらわせない。作者もまだ産まれていない時期のことを、ここまで綿密に描くことができているということの凄さ。自身の登山経験をもとに、資料や取材の結果を完全に消化して、作家としての想像力をフルに発揮しているからこそ、このような作品が生まれるのだろう。
作者の山岳小説には珍しい実録ものであり、そのために上巻の前半のように事実関係の説明にかなりのページを割いてはいる。そこの処理がもう少しこなれていたらという気はするが、頂上征服の瞬間には、そのことはもう頭から消えてしまっていた。山頂を純粋に目指し、ただただ登ることに意味を持つ登山家の想いが強く伝わってくるのである。
(2006年1月5日読了)