英国ヴィクトリア朝を舞台にした人気漫画の小説化で、「小説 エマ 1」の続巻。
ジェントリ階級の御曹子、ウィリアム・ジョーンズは、恩師のハウスメイドのエマをクリスタル・パレスに誘う。恋する二人はあまりの楽しさに時間のたつのも忘れ、閉館時間を過ぎてようやく帰ろうとする。二人は扉の閉まったクリスタル・パレスの中に取り残されてしまったのだ。ウィリアムに身を預け安心して眠るエマを見て、彼はこの人を幸せにしたいと決意し、翌日父親にその決意を伝える。しかし、階級社会の中では、彼の望みはかなうはずもない。そして、彼の知らぬ間に子爵令嬢エレノアとの婚約話が進み始めていた。一方、エマは彼女の主人であり庇護者であるストウナー夫人の死に立ち合うことになる。居場所をなくしたエマはウィリアムと訣別しようと決心する……。
原作コミック最初の山場でもあるクリスタル・パレスの場面が本書の中核をなしている。作者はここで、今は既に失われてしまったこのガラス製の博物館を、まるで実際に行ってきたかのように描写している。その描写が詳細であればあるほど、二人が夢中になって帰るのを忘れるところにもリアリティが増し、そして若い恋人たちが夜の月に照らされながら一夜をあかすロマンティックな場面が美しく読み手の心に映し出されるのである。
とはいえ、全体を通して読むと、翻訳小説風に意識して書いた部分と作者の書きぐせがはっきりとあらわれてしまう部分とが明らかに読み取れてしまう。作者が手だれであるからこそ、書いているうちに興が乗って自分の素の文体が出てしまうのだろう。
物語はいよいよ動き出したところ。北原尚彦の解説によると次巻以降の発行スケジュールは未定だそうだが、せっかく走り出した汽車が途中の駅で客を降ろしてしまうようなことになってしまうのはもったいない。小説化がうまくいっているからこそ、原作完結まで小説の方も続けてほしいと思うのだ。
(2006年1月15日読了)