「桂枝雀爆笑コレクション3 けったいなやっちゃ」に続く第4巻。本巻には「代書」「貧乏神」「道具屋」「いたりきたり」「延陽伯」「軒付け」「つぼ算」「ロボットしずかちゃん」「猫の忠信」「時うどん」「くやみ」「夢たまご」「どうらんの幸助」を収録している。
副題の「萬事気嫌よく」は、枝雀のキャッチフレーズであったもの。本来は「機嫌」と書かねばならないのだが、枝雀は「気嫌」という字面を好んでいたという。
なにかほんわかと気持ちよくなるような楽しい落語を中心に収録されている。特に枝雀の手になる新作の「いたりきたり」と「夢たまご」は、そういったあいまいで不思議な手触りがある。また、枝雀落語の中でも特に人気のあった「代書」は、もとになった桂米團治のものに、どんどんと手を加えていった最終型が収録されているけれども、小佐田定雄の解題にはそこにいたるまでの型も記されており、枝雀落語がどのように変化していったかを探る手がかりとなるだろう。
「代書」の松本留五郎さんはこの他「替り目」や「茶漬えんま」にも登場する枝雀落語の代表的なキャラクターとなるが、代書屋が不機嫌になっても委細かまわず陽気で能天気なおしゃべりを続けていく留さんの無邪気さは、枝雀自身の個性とは実は正反対ではなかったか。枝雀は自分がなりたくてもなれなかったキャラクターを、落語の登場人物を演じることによってなんとか現実のものにしようとしていたのではないだろうか。
本書の落語に登場する人物たちは、だからこそ枝雀落語の理想を体現しているといっていいと思うのである。
(2006年3月11日読了)