「桂枝雀爆笑コレクション4 萬事気嫌よく」に続く第5巻。これが完結編となる。本巻には「愛宕山」「猫」「親子酒」「茶漬えんま」「鴻池の犬」「花筏」「恨み酒」「仔猫」「雨乞い源兵衛」「質屋蔵」「つる」「三十石 夢の通い路」を収録している。
本巻の白眉は「三十石」であろうと思われる。伏見人形の店でのやりとりは米朝や松鶴の型とは違い人形の故事をしつこいまでにきく客と店の者の問答のようになっているし、お女中を迎え入れようとする船客の先を予想したのろけは比較的短めにするなど舟の中のくだりは煩雑さを避けたすっきりしたものになっている。ここに枝雀落語の特質を私は見る思いがする。理屈を徹底的に通し、人と人のかかわり合いをダイレクトに訴えかけていく。理屈を通そうとすれば通そうとするほど、人間という存在の理不尽さや矛盾が笑いを通して伝わってくるのである。しかも、枝雀落語では「人間の業」などというおどろおどろしい文言は使われてはいないが、人間の持つ理不尽さを誇張する形でそれを提示する。しかも、驚くべきは落語を聞いている時はいちいちそんな理屈を考えなくても自然にそれが伝わってくるのである。
桂枝雀という希有な落語家の笑いをテキスト化するという試みは本来困難なものだと思う。しかし、テキスト化することによってその構造や特徴がはっきりと見えてくる。編者の小佐田定雄、速記の小松照昌、桂雀松といった人々の、これはまことに貴重な労作といえるだろう。
(2006年4月30日読了)