「涼宮ハルヒの退屈」に続くシリーズ第4巻。
クリスマス直前、涼宮ハルヒの気まぐれで例によってパーティーの用意などをさせられることになった俺だが、その翌日の学校でとてつもない異変に出くわす。なんとうちの学校には最初からハルヒなどいなかったことになっている上に、ずっと以前に消失してしまった朝倉涼子が健在で、朝比奈さんは俺のことなど全く知らず、長門有希はただの無口で気の弱い文芸部員になってしまっているではないか。何者かの手によって俺はハルヒの存在しない世界に送り込まれたのか。級友の話ではハルヒは別な学校に進学したという。俺は学校を早退してその学校で彼女が校門から出てくるのを待った。果たしてハルヒは古泉をひきつれて現れた。むろんSOS団はその学校にも存在しない。しかし、ハルヒは3年前に俺がタイムトラベルした時のできごとを覚えていたのである。ハルヒはこの世界で新たにSOS団を作りたがる。しかし、俺はこの時に気がついたのである。以前の未来人や超能力者や宇宙人とともにハルヒに引きずり回される日々を楽しんでいたことを……。俺はもとの世界に戻ることができるのか。そして、こんな世界改変をやったのはいったい誰なのか……。
「あるべきもうひとつの世界」というテーマ、そしてタイムトラベルテーマをしっかりと踏まえた、きちんとした骨格のあるSFとなっている。まさしく世界に確実なことなどないのだ。現在起きている状況はただもう偶然の積み重ねであるのだ。
本書のテーマは、キョンが置かれた立場……複数の可能性を提示された時にどの可能性を主体的に選び取るかというところにある。文句をいいつつも実は楽しんでいた世界か、そこで口にしていた文句がかなえられた世界か。ふだんの言動からすれば、文句がかなった世界を選び取ることになるはずである。しかし、単純にそうならないのが人間というものの面白いところなのだ。そういう人の心の機微を鮮やかに描き出している。
これまでのエピソードと関連づけ、今後の展開にも気を配りつつ、本巻独自の色を出すという、これは実は至難の技であると思われるのだが、それを見事にやってのけているのに感服した。量産がきくタイプではありそうだが、編集部はじっくりと育てるという方向性も考えていってほしい。この調子でやっていったら下手したらつぶれるぞ。
(2006年6月18日読了)