読書感想文


東山殿御庭
朝松健著
講談社
2006年6月29日第1刷
定価1700円

 「暁けの蛍」に続く「ぬばたま一休」シリーズ第2巻。一休を主人公としたものとしては7冊目となる。
 いずれも「異形コレクション」に収録されたもので、短篇5編の連作である。
 「尊氏膏」は、関東公方の腫れ病を治すために秘伝の〈尊氏膏〉の製法を知る細川鉛丹のもとを訪ねた一休が見た人のどす黒い欲望の物語。「邪笑う闇」は、村を救うための供物となる娘を助けようとした一休の不可思議な体験を描く。「ずい(”豕生”の2文字を合わせた漢字)」では、中国の道士が仕掛けた巫術を解こうとする一休の悪戦苦闘が描かれる。「應仁黄泉圖」は、応仁の乱のさなかに盲目の少女、森とともに都から脱出しようとしていた一休が、謎の地図を持った男にふりまわされる物語。「東山殿御庭」は、造営途中の銀閣の庭に響き渡る子どもの笑い声の謎を一休が探る。
 若き日の一休を描いたものから、最晩年を描いたもの、さらには死後に霊となって活躍する一休まで登場する。ここでの一休はどんな謎も解決するスーパーヒーローではない。自分の力以上のものには戸惑い逃げ惑い、人の醜い欲から思わず目を背ける。老境に達しても若い女の魅力にとらえられてしまう。その弱さが、逆に妖異の恐ろしさを際立たせる効果をあげている。
 この連作で一休が遭遇する妖異は、いずれも人の醜い欲望から生じたものといえる。それが醜ければ醜いほどに一休の感じとる哀しみの深さが伝わってくる。その哀しみの感情こそが、人というもののあるべき姿を示しているかのようである。
 人の欲は醜い。しかし、そこから目を背けてはならない。作者が一休に仮託して伝えたいのは、そのようなメッセージなのであろうか。

(2006年8月22日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る