読書感想文


ローマ人の物語24
賢帝の世紀[上]
塩野七生著
新潮文庫
2006年9月1日第1刷
定価476円

 「危機と克服[下]」の続巻。
 世界史の教科書では「五賢帝時代」とされている紀元2世紀が舞台となる。「五賢帝」のうち本巻ではトライアヌスの業績が綴られる。
 高齢で即位したネルヴァの後継者に指名されたトライアヌスは、ローマ史上初めての属州出身者であった。トライアヌスはドミティアヌス以来の懸案であったダキア戦役に勝利し、ローマ帝国最大の版図を手中にする。ダキア戦役でのトライアヌスはただ戦うだけでなく戦いながら占領地の土木作業を行い、足場を固めるという実利的な戦い方を主として行った。著者によると、「プラグマティックなアメリカ人から見てもプラグマティックな皇帝」なのだという。
 首都ローマのインフラ整備を十全に行い、元老院との関係を常によいものに保ちつつ、トライアヌスはパルティア王国との戦いに踏み出す。しかし、ひたすら賢帝として走り続けたトライアヌスは、戦いの決着がつく前に病死、20年の治世にピリオドを打ったのであった。後継者にハドリアヌスを指名して……。
 ドミティアヌスまでの皇帝には史書が残っている。しかし、トライアヌスに関しては彼自身が著したといわれる「ダキア戦記」も散逸してしまっている。同時代の史家も細かい記録を残していない。そんな中で著者は建造物の彫刻で示されたダハア戦役の物語を再構成したり、トライアヌスが鋳造させた通貨をもとにその業績がどのようなものであったかをたんねんに構築していく。
 著者は「当時のローマ人からも『黄金の世紀』と呼ばれたのはなぜであったかを検証したい」と書く。続くハドリアヌス、アントニウス・ピウスの業績を検証することにより、それが明らかになっていくのだろう。悪名高い皇帝たちが、実はすばらしい花を咲かせていたことはここまでの巻で明らかにされているが、ここからは、その果実をいかに人々に最上の時期に収穫したかということが描かれるのである。

(2006年9月3日読了)


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