「賢帝の世紀[中]」の続巻。
本巻では五賢帝の一人、ハドリアヌスの後半生とアントニヌス・ピウスの治世が綴られている。ハドリアヌスはギリシアからエジプトへと最後の視察旅行をし、ローマ帝国の足場を完全に固め切る。また、ユダヤ教徒の過激派をイェルサレムから追放し、ユダヤ人対策を完了する。キリスト教徒はこの時はハドリアヌスに対して反抗することがない穏健派だったため、生き延びたのである。すべき仕事を完了してしまったハドリアヌスは、老人特有の頑固さと帝位のほとんどを費やした旅のために体力が低下したことにより、その過激な性格が表にあらわれるようになる。そのため晩年は元老院から嫌われてしまった。後継者であったはずのアエリウス・カエサルは若くして病死し、苦悩の中ハドリアヌスは穏健なアントニヌス・ピウスを養子とし、若年のマルクス・アウレリウスを養孫に決め、まさになすべきことは他になくなった上で逝去した。アントニヌス・ピウスの「ピウス」とは「慈悲深い」という意味である。国力の安定したローマ帝国に平穏な秩序を与えるため、アントニヌス・ピウスはその名の通りの善政をしいた。マルクス・アウレリウスに帝王教育を授けた彼は、最善の形で「哲人皇帝」にバトンを果たす役割を果たしたのである。
本書で注目すべきはユダヤ人とローマ帝国の関係を時系列をたどりながら解きほぐしていった部分だろう。20世紀にイスラエルが建国されるまでの長い長い「ディアスポラ」の起源がわかりやすく語られる。それは、キリスト教がヨーロッパを支配する以前からこの地に植えつけられたものなのである。
かくして、ローマ帝国最大の安定期はまだまだ続く。皇帝が血統でなく能力で引き継がれていったからこそ、この平穏な時代が続いたということなのである。
(2006年9月7日読了)