読書感想文


ローマ人の物語27
すべての道はローマに通ず[上]
塩野七生著
新潮文庫
2006年10月1日第1刷
定価476円

 「賢帝の世紀[下]」の続巻。
 前巻までは通史の形でローマ帝国の姿をたどってきた著者が、本巻と次巻ではローマのインフラ整備について全時代を俯瞰するというスタイルでその優れた点を明らかにしていく。
 本巻は、アッピア街道をはじめとするローマ街道について詳述されている。ローマの街道を最初につくったアッピウスの時代には、ローマはまだイタリア半島の一部を支配する一都市に過ぎなかった。しかし、その発想は大帝国となった後代につながるもので、交通網を整備することにより、支配下においた土地をローマとつなぎ、ローマと同化させてしまうというローマ帝国の支配方法はこの街道から始まったともいえるのであった。
 著者は、同じく建築に力を入れた秦の万里の長城との発想の違いを比較し、他国を同化させるローマと他国を排斥する秦とではローマが優れているという判断を下している。これについては、私なりに異論はないではないのだが、それだけローマに対する愛着がある著者の心情をはっきりと表している見解として興味がある。
 ローマの街道は優れた舗装道路であった。そして、800年にわたってその街道が劣化しないように常に整備することを優先させてきたローマ人の発想に、著者は公共事業というものの理想的なあり方を見い出すのである。
 次巻では水道、医療、教育について詳述される。果たしてローマのインフラが真に理想的なものといえたのかどうか、街道以外の説明で判断してみたいと思う。

(2006年10月11日読了)


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