「水滸伝 一 曙光の章」の続巻。
全国を放浪していた武松は故郷を訪れ、幼い頃から恋いこがれていた兄嫁の潘金蓮と再会し、兄のいない間に金蓮を犯してしまう。武松に心を開いてしまった金蓮は自害し、兄の武大も自ら命を断ち切る。自分も死んでしまいたくなった武松は、虎と戦って死のうとするが逆に虎を退治してしまう。魯智深はそんな武松を王進のもとにあずける。一方、梁山湖の山塞に入ることのできた林冲は、頭領の王倫から命を狙われる。医師の安道全のおかげで毒殺を免れた林冲は、晃蓋たちが梁山湖に入るのを待って王倫の命を奪おうと決意する。その晃蓋は、公然と贈られる運ばれる賄賂を乗せた隊列を計略にかけ、その金を奪う。そして、ついに晃蓋が梁山湖に到達し、王倫を排除した梁山湖は新たな頭領を迎えて梁山泊として生まれ変わるのである。
本書で驚かされるのは武松と潘金蓮のエピソードである。原典では毒婦として描かれる金蓮は、ここでは貞女であり、富豪の西門慶と密通していた金蓮が武大を毒殺し、武松がその仇をうつという名場面を、作者は思い切って別の話にしてしまっているのだ。武松という人間を造形する際に、作者は兄嫁と密通し彼女を死に追いやるという苦難と絶望から這い上がらせたいと考えたのだろう。この他にも青面獣の楊志や王倫なども作者独自の人物造形がなされている。
「水滸伝」という枠組みを使って新しい物語を紡ぎ出そうという意欲が感じられるところだが、原典を知らずに本書で「水滸伝」を初めて読むという読者もいるだろうから、金蓮の正反対ともいえるキャラクターなどは、もし原典かそこから派生して生まれた「金瓶梅」をこのあとに読む読者を戸惑わせるように思う。むろん、北方版「水滸伝」ではこれでいいのであるが……。
(2006年11月23日読了)