「逆境戦隊バツ〔×〕 1」の続巻で、完結編。
騎馬の同僚で、かつては美男子だったが現在はみる影もなく肥満してしまった巨漢の花井もまた、クルミレンジャー・イエローに変身する。さらに、憧れの来見三音は社長の組織下に入らない形でクルミレンジャー・ブルーとして怪人と戦う。レッドへの変身能力を失い怪人化しようとしている騎馬は、愛する三音を襲う前に別れようと決意、彼を信頼してくれる三音との別離がかれをさらに強いクルミレンジャー・レッドへと変えてくれるのだ。三音や怪人化した瑞木らが実は3年前に事故で死亡しているにもかかわらず、社員たちの目には生きた者として映っていることに不審を抱いた騎馬たちは、来見社長がその秘密を知っているという疑念を抱き、直接問い詰める。そこで社長から明かされた怪人と逆境戦隊の秘密とは……。そして騎馬たちはそのコンプレックスを力に変えて戦い抜くことかできるのか……。
1巻目は変化球を投げてみせていた作者が、本巻にいたって本来の豪速球を投げ込んでくれた。劣等感まみれの彼らクルミレンジャーが信じられる唯一のもの、それは「愛」。ラスト近くの大ボス対ヒーローの戦いなどは、その徹頭徹尾「愛」を信じて突き進む力に圧倒されてしまった。
むろん、SF的な設定はちゃんとあるし、そこがしっかりしているから本書は戦隊ヒーローもののパロディにとどまっていないのである。人間には劣等感と、それを凌駕する愛の力があるのだ。そして、作者はそのメッセージを読者に思い切りたたきつけてくる。パロディには、韜晦という苦味がある。しかし、本書からはそういう苦味が感じられない。感じられる苦味は、社会の枷に組み入れられた「大人」たちのほろ苦い「生」であり、その苦味を最後の戦いでどんとかき消してしまうのである。
そして、作者は最後には読み手の心に暖かいものを残す。そこに作者の「人間、生きてたらそうそう悪いことばかりは起こらないよ」というつぶやきみたいなメッセージがこめられているように思うのである。
毎日を雑事に追われ、しんどい思いをしている方たちにはぜひ読んでいただきたい。そして、なんとなく将来に展望が見えない若い方たちにも。
(2007年1月3日読了)