読書感想文


恋って恥ずかしい 家族善哉2
島村洋子著
講談社文庫
2002年12月15日第1刷
定価495円

 「家族善哉」の続編。
 母の介護で出席日数が足りずに留年してしまった咲子は、今度は息子の新哉と同級生になってしまう。その新哉は東京からの転校生、高千穂瑛子に憧れている。その瑛子がなんと新哉に個人的に話があるという。差し出されたのは妊娠中絶の書類であった。誰かとの間にできた子どもをこっそり堕胎するために名前を貸してほしいというのだ。好きな子から頼られるといやと言えない新哉はその書類を家に持ち帰る。それを不用意に自分の机に置いてしまった深夜の知らないところで、父の紘太郎と母の咲子はそれぞれ別々に新哉の力になってやろうと動き始める。中絶について相談した体育教師の小島は勘違いして新哉に無神経な言葉を投げかけ、新哉は小島を殴って謹慎に。その小島は実は咲子と高校時代の同級生で、咲子が小島に相談しているところを長女の美佐緒が目撃して不倫と思い込んだから話はさらにややこしくなり……。
 前作で逆境を笑い飛ばしてしまうパワーあふれる大阪の家族を描いた作者は、本書でも深刻な悩みを抱える家族たちをひたすら明るく元気に描き出してみせた。
 特に、気弱でおとなしい新哉が本書の主役なのがよい。しかも女の子とつきあったこともないのに、憧れの女子からとんでもない依頼をされ、ショックを受けつつも自分なりのプライドで彼女の力になろうとする健気さがいい。彼女にただ利用されているだけということはわかっていても、それでも新哉は自分で決めたことを貫こうとするのだ。こういう男のよさを瑛子はわかってくれるかなあ。
 父の紘太郎のスカタンぶりも、姉の美佐緒の気は強いけれど男のペースについつい乗ってしまうところも、大阪人のもつ味がじんわりとにじんできて、とても楽しい。
 前作のテレビドラマ化のおかげで本書が書き下ろされ、いわばシリーズ化となったわけである。できれば今後もこの前向きでお人よしで頼られるといやと言えない愛すべき家族たちの物語が書き続けられることを願う。

(2007年1月4日読了)


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