「グラン・ヴァカンス」に続くシリーズ第2巻。中短篇5編が収録されている。
「区界」の閉じられた世界で見つかる不思議な物体〈硝視体〉をめぐる少女のエピソードを描いた「夏の硝視体」。「区界」開設の根本となった発明をめぐり、醜い女性とネット上を浮遊する彼女の発明したソフトにまつわるいきさつが明らかになる「ラギッド・ガール」。「区界」がまだ「数値海岸」と呼ばれ人の似姿がそこに行くことのできた時に起きた、ある研究者の死をめぐる謎を探る「クローゼット」。「数値海岸」が閉じられて「区界」となった原因と、閉じられる瞬間を交差させて描く「魔述師」。「区界」の王をめぐりAIたちを食いつくそうとする勢力と守ろうとする勢力の激しい戦いを描いた「蜘蛛の王」。
いずれも、このシリーズの世界観を明確にしようとする作者の試みである。そこで展開されるのはイメージをいかに言語化し、SF的背景をシリーズ全体にはりめぐらせていくかという作者の実験である。
一読して感じたのは、作者にとっては「物語」はさほど重要ではないのではないかということである。作者が描きたいのは、内なる世界観であり、その世界の設定なのであろう。そこに住む人々がどう生きてどう成長し、挫折するかということよりも、そこに生きる人々の様子を切り取ってつなぎ合わせ、それがどのような世界であるかを表現しようとしている。そのような印象を強く受けた。
人間や「物語」に強い関心を持つタイプの読み手(私がそうなのだが)には向いていないかもしれないが、「世界」という枠組みをさまざまな視点からとらえたいというタイプの読み手にとってはここで描かれる世界観は美しく、かつ衝撃的なのではないだろうか。特に表題作のように、一つの世界が形成される過程をここまで描きこんである作品などは、こたえられないに違いない。
ただ、私は、この世界でないと展開され得ない事件とそこであがく人間の喜怒哀楽などをもう少し読みたいと思ってしまった。「魔述師」や「蜘蛛の王」などは私の好きなタイプの話なのだが、さあここからというところで広げた風呂敷をたたまれるような感じがしてなにか食い足りないものが残ってしまったのが残念である。
(2007年1月9日読了)