「水滸伝 三 輪舞の章」の続巻。
弟の罪をかぶって罪人として追われる身になった宋江は、すぐに梁山泊に駆け込むことはせず、諸国をめぐり同志を訪ね歩くことにする。従者は武松ひとり。各地で権力への憤りをどのように吹き出せばよいのかわからない者たちがいることを知り、李俊らと出会う。宋江の語る「志」に耳を傾けた彼らは、新たな叛乱者として政府に刃向かっていく。そしてついに自然児李逵と山中で出会う。一方、青蓮寺では、李富が、宋江の殺された愛人の母である馬桂に接近する。事情を知らぬまま宋江を怨み李富の愛人となった馬桂と、梁山泊掃討の道具として利用するために接近したにもかかわらず馬桂を愛してしまう李富。青蓮寺の標的は完全に梁山泊に絞られてきた……。
本巻の主役は諸国をめぐる宋江のはずなのだが、私には李富という人物の心の揺れ動く様が印象に残った。これまで、作者は意識的にだろうが青蓮寺のメンバーについての細かな描写をしてこなかった。しかし、ここにきて好敵手として彼らがいよいよクローズアップされることになってくる。特に李富は、手駒として扱わなければならない女性に深い愛情を抱いている。これが今後の展開にどうつながっていくのか。
男女の機微と男の「志」の描き分け方にベテラン作家の技量を見せつけられる思いがする。
(2006年2月3日読了)