読書感想文


楊家将(下)
北方謙三著
PHP文庫
2006年7月19日第1刷
2007年1月25日第3刷
定価619円

 「楊家将(上)」の続巻。
 北宋皇帝は、遼軍との戦いに自ら出陣することを決める。楊業と息子たちは作戦上2つに分けられ、しかも作戦の指揮は本国の総指揮官である曹彬がとることになり、最も遼軍を知る楊一族の考えは届かない。耶律休哥はまず楊軍であることを伏せて動いていた四郎の部隊を落とし、四郎は生け捕りとなってしまう。長子延平は策にはまって身動きのとれなくなった皇帝を逃すために影武者となって戦死した。二郎は弟たちが父を呼んでくるまで遼の軍を食い止め、ついに命を落す。やっと戦場についた楊業は、皇帝を守って宿敵耶律休哥との対決に臨むのであった。
 人としての働き場所とはどこなのか。そんなことを考えさせる物語である。例えば宋の武官潘仁美は、文官に向いている人間であるにもかかわらず、武門に生まれて軍の中心となったがために失態を演じてしまう。決して無能な人間ではないのであるが、遼との戦いという状況が続いている時期に、そのような場所にいるべき人間ではなかったのである。また、耶律休哥は分を知る人間として描かれており、どのような戦功を得ても決して高い地位は望まず最前線で楊業との一騎討ちにも似た戦いを楽しんでいる。潘仁美と耶律休哥を対比するだけで、様々に思いをめぐらせることができる。
 それはこの物語全体を通じて描かれており、調練では力を出せない六郎の実戦での果敢な戦い方、一族の他の兄弟とはうまくいかないが独立軍的な位置についたところで場所を得る四郎、武人ばかりの遼の中で軽視されていた王欽招吉は間者として宋の王子にうまくとりいりその力を見事に発揮する。
 本編は楊業と耶律休哥の最後の戦いでいったん幕を閉じるが、作者は後伝である「血涙」で楊一族のその後の姿を描いている。本編を文庫で読んだので、続編も文庫化まで待つつもりなのだが、待切れない思いもする。それくらい魅力的な人間ドラマなのである。

(2007年3月3日読了)


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