読書感想文


水滸伝 六 風塵の章
北方謙三著
集英社文庫
2007年3月25日第1刷
定価600円

 「水滸伝 五 玄武の章」の続巻。
 楊志を失った梁山泊が、二竜山の指揮者として目をつけたのは、官軍の秦明将軍であった。魯達は策を用いる準備をしながら、愚直に語り合い、花栄とともに梁山泊の仲間として迎え入れることに成功する。秦明の最初の仕事は、青州軍との戦いであった。青州軍の敗北と同時に、青蓮寺も動き始める。標的は、まだ諸国をまわっていて梁山泊にたどりついていない宋江と、梁山泊の要である軍師の呉用を暗殺することである。青蓮寺には聞煥章という軍師が入り、広い視点から作戦を立案し始める。飛脚の通信網が発たれていく中で、旅先の宋江は次第に梁山泊から孤立し、ついには青蓮寺の裏の軍団に包囲されてしまう……。
 本巻では、宿敵青蓮寺の逆襲がより強く打ち出される。北方水滸伝では、単に腐り切った朝廷の役人だけを描くのではなく、理想をもって宋を変革しなければならないという勢力をていねいに描き出しているのが特徴といえる。つまり、大衆にわかりやすく「梁山泊=善、朝廷=悪」という図式をとっている原典とは違い、人間の持つ表裏を水滸伝全体の図式に巧みにとりいれているのである。このシリーズが読み手をひきつけてやまないのも、そのような作者の細かな構成力があるからなのだろう。
 危機一髪の宋江がどのようにこの危地を脱出するか。次巻が待ち遠しくてならない。

(2006年4月8日読了)


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