脚本家で大相撲の横綱審議委員である著者が「週刊朝日」に連載しているエッセイから相撲関係の部分だけを抜き出して再構成したもの。
横綱審議委員として朝青龍や高砂親方、北の湖理事長らにどのように意見してきたかを、その時の記述を変えることなく記している。これは「朝青龍サッカー事件」以後に朝青龍をバッシングし始めた人たちと一線を画するためである。著者は横綱審議委員として、また相撲愛好家として責任をもって発言をしてきたのだ。横綱に昇進する際に「品格」をつけるよう師匠が指導することという一札をいれていたことも明記し、何か事件があるたびに高砂親方に「どう指導しているのか」を追及し続けてきたことも本書には明記されている。また、審議委員として本場所にも見にこないで協会の姿勢を黙認するような委員や委員長の私見をあたかも委員会の総意であるかのように報道するマス・メディアに対しても容赦はしていない。
なにしろ横綱審議委員にふさわしい見識を深めるためにわざわざ東北大学の大学院に入って相撲の研究をしなおしたくらいなのだ。相撲、プロレスなどの格闘伎をこよなく愛し、力士や選手に対する敬意や愛情を隠さない著者の姿勢には、一本筋が通っている。
著者は「まえがき」でこう書いている。
「私は朝青龍が嫌いなのではない。職業に対して真摯でない部分と、外国に敬意をもてない部分が嫌いで、師匠においてはそれをガツンとやれない部分が嫌いなのである」
まったく同感である。相撲はただのスポーツではないと、私は本ホームページ開設時に書いた(ここをお読み下さい)。著者は相撲は「神事」であると本書で明記している。近代的なスポーツとして相撲を語ってはいけないし、横綱という力士の最高峰に立つ人にはそこを理解してほしいと、著者は常にそこから出発している。だから意見にぶれがない。こういう人が横綱審議委員であることの大切さを理事長は理解しているのだろうか。
相撲ファンとして、おおいに共感できる、あるいは自分の気持ちを代弁してくれるような一冊である。
(2008年1月19日読了)