大相撲小言場所


春場所をふりかえって〜貴闘力初優勝、武双山大関へ〜

 今場所は3つの見どころがあった。
 まずは横綱若乃花の引退。これについてはここに書いたので、くわしくは触れないが、あの体で横綱まで張ったのだから、いまはもうお疲れさまとだけ言っておきたい。
 続いては武双山の大関昇進。先場所に続いて、安定感のある相撲を取った。勝ち星の数はもちろん、相撲内容からいっても現在の横綱大関全員よりもいい内容の相撲を取っている。立ち合いの当たり、押していく前傾姿勢の角度、腰の備え、不利な体勢になってもあきらめない取り口など、この2場所の武双山は文句なく大関の相撲を取っている。この文を書いている時点では正式な発表はまだだが、昇進おめでとうと書いておく。これまで何度も大関昇進のチャンスを逸してきて、後輩たちに抜かれながらもここまできた。精神力も鍛えられているはずだ。昇進したとたんに平幕力士並みの相撲しか取れなくなった千代大海のようにはなるまい。
 最後に、優勝争い。なんと幕尻の貴闘力が初日から12連勝。武蔵丸と曙の両横綱にはプレッシャーもあって一気にもっていかれてしまったが、千秋楽の雅山戦は土俵際で足1本で残るしぶとい相撲で逆転勝ちし、とうとう初優勝の栄誉に輝いた。千秋楽のインタビューで「どこがよかったですか」ときかれて「運がよかった」と答えたけれども、確かに15日間の相撲を振り返ると圧倒的な強さを感じさせるのではなく、紙一重で勝った相撲が多かった。これは先場所までならあえなく土俵を割っていたであろう相撲を、勝負への執念としかいいようのない取り口で拾っていったという感じがする。相撲の神様が貴闘力を後押ししていたとしか思えない優勝だ。私は精神論だけで相撲を語る愚は犯したくないけれど、勝つことへの執念の強さを貴闘力に感じた。その執念はどの力士も見習わなければなるまい。
 優勝争いをした武蔵丸は、予想されたように怪我をした左手をかばう相撲が目についた。そこをつかれるともろかった。それでも最後まで優勝争いにからんだのだから、地力の強さを感じさせる。
 貴乃花は腰が悪いのではないだろうか。立ち合い、胸を出してまわしを取りにいく。うまくとれればそこから引きつけ腰を突きつけて寄ることができるのだが、相手の当たりをまともに食らうと為すすべがなかった。稽古の貯金を使い果たした今、かつての相撲はもう取れないのかもしれない。とはいえ、勝ち相撲はたいてい全盛期と同じような形になっている。型を持つ力士の強みがある。
 曙は善戦したといっていいだろう。ただ、常に追う展開になっていたので最後まで優勝争いに残れたけれど、取り口の不安定さはいかんともしがたい。晩年の小錦のように、相手をがっしり捕まえて動きがとれないようになったところを寄り切るような相撲に転換するしかないのではないか。今場所の勝ち星のいくつかにそういう相撲があった。立ち合いから一気に突き放す力は、残念ながら衰えを見せている。そういう印象が強い。
 雅山の相撲から雑なところが消えた。武蔵丸、武双山、出島らと稽古をすることが彼にとっていかにプラスになっているか。切磋琢磨とはこのことだろう。課題は組んだときの攻めと土俵際の詰めだろう。千秋楽の貴闘力戦は喜んで出ていったところを突き落とされている。あそこでいったん腰をぐっと落とし相手をはさみつけるように出ていくことができれば大関にはなれる。今のところ、相撲の内容では千代大海と貴ノ浪の両大関より上ではある。
 さて、優勝争いに加われなかった力士について触れておく。
 千秋楽、もし武蔵丸が優勝決定戦出場をかけて気合いの入った相撲を取っていたら、千代大海は負け越していたはず。場所前に書いたように、突っ張ってはたくパターンが直っていない。千代大海は貴闘力の勝負にかける執念を学ぶべきだろう。今のままなら、大関の座を失う日がそう遠くなく来ると、そのように感じられる場所であった。
 出島はいい日と悪い日の差が激しすぎた。下半身の安定感が出島の持ち味だっただけに、それを欠くと今場所のようになるという感じがする。もっとも、勝った相撲は素晴らしい出足があるので、千代大海ほど悲観はしてないけれど。
 私はここで不明を恥じなければならない。貴ノ浪が優勝候補だなんて場所前に書いてしまったからだ。見るも無惨な負け越し。立ち合い、ワンパターンのように張り差しにいってはもぐられまわしをとれずに完敗という相撲が目立った。先場所前半の、あの、勝負に賭ける気力が見られなかった。体調が悪かったというが、悪いなら悪いなりになんとかするのが大関だろう。来場所はカド番となる。
 面白かったのは十両の優勝争い。栃乃花、琴光喜、戦闘竜の三つ巴の優勝決定戦となったが、安定した寄りを見せる栃乃花が制した。勢いできている琴光喜よりも、学生相撲出身ながら前相撲から上がってきた栃乃花の方が幕に上がっても安定した相撲が取れるのではないか。あと、十両では相撲巧者の安美錦が楽しみ。もう少し力をつけて幕に上がってきたら技能賞の常連になるのではないか。
 今場所は全体に面白かった。熱の入った相撲も多く、優勝争いも千秋楽までもつれ、話題性もあった。こういう場所が続くと相撲人気も再び盛り上がるかもしれない。

(2000年3月27日記)


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