高男くん


作品解題

 1984年6月発行の「SFワールド5」(双葉社)に掲載された作品。同誌は「小説推理」の増刊として発行されていたショートショート中心のSF誌。「ファンジン・デビューコーナー」に巽孝之さんの推薦で同人誌「illusion 7号」(1983年5月発行)から転載された。
 商業誌に読者リポーターなどで自分の文章が掲載されたことはあったが、創作が掲載されたのはこれが初めてとあり、当時大学生であった私は勘違いをして洋々たる前途に期待をもったものである。今読み返すと文章の稚拙さや言葉の選び方の粗雑さが気になるが、あえてそのままここに掲載する。ところどころユニークなアイデアがあるが、全くもって未熟な展開で赤面の至りである。これでよく商業誌に掲載されたものだ。巽さんにきいた話では、編集部はこれを掲載することを渋ったそうである。さぞかし困ったことであろう。それだけに、推薦して下さった巽さんには感謝以外に言葉はない。
 なお、このあと商業誌に創作が掲載されるのは「おどりじいさん」までなかった。
 なお、本作品は「きたてつじ」名義で発表されたものである。


  家にいても何もすることがないので高男くんは散歩でもしようとぶらりと家を出た。
 子供たちが火を拝んでいた。
 鳩が電線の上で立ち話をしていた。
 見上げると鳩たちは話をやめて高男くんの方を見た。
 目と目が合った。高男くんはにっこり微笑んだ。
 ぼたぼたと鳩たちは一斉にふんを落とした。
 わわわ〜。
 鳩たちは腹をかかえて笑い、のけぞりすぎた鳩が何羽か下に落ちてきた。
 ふんが服についたので高男くんは風呂屋にむかった。
 煙突から紫色の煙が出ていた。
 今日は土曜か。
 この風呂屋は煙の色を曜日によって変えているのだ。
 客は高男くんひとりだった。
 番台のおばあさんが嬉しそうに笑った。
「ただでいいよ」。
 おばあさんは番台からおりて高男くんの服を脱がせてくれた。
「かわいいねェ」。
 そういって高男くんの男性自身をくわえこんだ。
 歯ぐきの感触がなんともいえない。
 高男くんは発射した。
 ごくんごくんと精液(カルピス)を呑みこんだ。
 たちまち顔に張りがでてきておばあさんは妙齢の美女になった。
「これで一週間はもつわね」。
 イロッぽい声で言って鏡を見た。
「今日はすごくきれいになったわ。きっと種がよかったのね」。
 妙齢の美女は番台にもどっていった。
 もしかしたら自分がおじいさんになっているんじゃないかと高男くんは心配したが、鏡を見て安心した。
 湯舟の中には毛だらけの黒い生き物がうようよといた。これが「浦乃湯名物・くろけろ湯」なのかと高男くんは納得した。高男くんはよくこの浦乃湯にくるのだが、まだくろけろ湯にはいったことがない。
 くろけろ湯は三ヶ月に一度しかやらないのだ。今日はただではいれる上にくろけろ湯なのですごくラッキーだと思った。
 くろけろは長い体毛につつまれていた。
 毛がぴんと立っているのが固そうだった。
 しかし、はいってみると柔らかかった。
 人がはいってくるとくろけろは、待ってましたとばかりにすり寄ってきた。そしてもぞもぞと動いた。
 高男くんはぼんやりと湯につかっていた。
 くろけろが体を舐めた。くろけろは三ヶ月に一度人の垢をたべればそれで生きていけるのだ。たべすぎると死んでしまうからくろけろ湯はたまにしかない。
「ぐひょぐひょぐひょひょ」。
 気持ちはいいがいささかくすぐったかった。
 湯舟をでると体をきれいにふいて服を着た。
 妙齢の美女に見送られて高男くんは外に出た。
 そして、風呂にはいっただけでは服についた鳩のふんが落ちないことに気がついた。よく考えたら髪も洗っていない。
 高男くんはコインランドリーにはいった。
 ふんのついたトレーナーとズボンを脱いで洗濯機に放りこんだ。
 下着だけになるとさすがに涼しい。
 高男くんは回っている洗濯槽に頭をつっこんだ。
 脱水がすんで服を乾燥機にいれようとした。
 扉をあけると中には枯れたような老人が座っていた。
 老人は高男くんを悲しそうに見つめて言った。
「お若いの。長くはいっとると体に悪いものじゃ」。
 高男くんはぞっとして乾かすのはやめにした。
 びしょぬれのまま服を着た。重い。
 ぽたぽたとしずくをたらしながら家にもどった。
 鳩はもういなかった。
 子供たちは火を拝むのをやめて、ええじゃないかを踊っていた。
 高男くんはそのあと鼻毛を抜いて寝た。
 くろけろの毛を抜いて食べる夢を見た。
 朝起きたら夢精をしていた。
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