愛すれどTigers


99年度を振り返って

 一度は首位に立った。最下位に終わった今年だが、ちゃんとそれなりのものは残した。若手をどんどん起用し、ベテランに危機感を与えた。ベテランたちの再生と、若手たちの台頭という、成果はあがったのだ。
 ならば、なぜ最下位に終わったのか。
 前半は、いわば野村采配がカンフル剤になったといっていいだろう。選手たちは無我夢中でプレイをし、新しい監督の前で認められようとした。それがいい方にまわった。2ランスクイズ、ダブルスチール、はては敬遠球サヨナラ打まで。結果はあとからついてくる、そういう野球。野村TOP野球は順調にいっていたといえる。
 ところが、首位に立ってしまったことが、逆に選手には結果を意識させるようになってしまったのではあるまいか。そうなると、結果だけを求めてしまう。結果が出ないと焦る。焦るとますます結果が悪くなる。悪循環である。
 ブロワーズの解雇、メイの退団がそこにぶつかった。結果の出せないものはやめさせられるという事実を目の当たりにして、ますます結果を意識してしまう。悪循環は止めどもなく続き、その上に和田、矢野、伊藤の故障が重なり、結局最下位……。
 ブロワーズはおそらく二軍には落とさないという契約だったのだろう。ジョンソンがそうだったのだから、大リーグでの実績のあるブロワーズならなおさら当然のようにそのような契約がなされていたに違いない。二軍で調整させたくとも、落とすわけにはいかない。調整のために試合に出させるというわけにはいかない。
 野村監督も、だから、結果を追い求めてしまうようになったのではないだろうか。結果の出ないブロワーズを使い続けられない。今年が種まきの年であるならば、たとえブロワーズといえども種の一粒として使い続けてもよかったのだ。首位に立ってしまったことで、野村監督は昨年までのスワローズと同じような試合をしようとしてしまったのかもしれない。しかし、タイガースはまだ結果を求めて戦えるだけのチームではなかった。TOP野球を忘れたのは、実は野村監督だったのかもしれない。
 だから、来季に望みをつなぐことができる。結果のみを追い求めるだけではだめなのだ、肝心なのはプロセスなのだということを監督も選手も肌で感じることができただろうから。首位から最下位まで、全ての順位を経験した選手たちが、その恐さを一番思い知ったことだろう。
 昨年は、秋季キャンプはコーチ任せで選手を思うように鍛え上げることができなかった。しかし、今年は違う。選手の実力を把握した上で、適切な練習を監督自らの手で施すことができる。マスコミを通じて選手の評価を語るというやり方も、シーズン途中で改めた。この秋季キャンプでは、監督は自分の言葉で選手たちに直接指導することができる。
 私にとっては、今季は十分楽しませてもらった。不満がないわけではないが、それはもうすんだことだと思える。来季に期待をつなぐことができる。

1999年度のタイガースの戦績。55勝80敗。勝率.407。セントラル・リーグ、最下位。

◎愛すれどTigers年間MVP
投手……遠山奨志 一度は野球をあきらめかけた男が、投手をあきらめて打者に転向した男が、見事に生き返った。弓長の戦列離脱で左腕中継ぎエースが不在となった。その穴を埋めてあまりある活躍であった。結果を怖れぬ強さがあった。
野手……矢野輝弘 正捕手不在といわれていたはずなのに、野村野球を十分に咀嚼し実行に移した矢野がここまで一気に成長すると誰が思っただろうか。関川と久慈がドラゴンズで活躍しているが、その交換相手であった矢野もこうやって変身したのだ。残念ながら怪我で終盤戦を欠場することになったが、ネット裏で野球を見るという得難い経験もしたはず。

 さて、あとしばらくはドラフト、トレード、フリーエージェントなど、選手補強の話題がひととおり続くだろう。チームを把握した野村監督がどのような補強をしていくのか、オフも目が離せない。

(1999年10月18日記)


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