開幕以来首位を走っていたタイガースだったが、甲子園のスワローズ戦で2敗、東京ドームのジャイアンツ戦で1勝2敗、今節1勝4敗と大きく負け越し、5月12日にとうとう2位に陥落した。とはいえ、新人を根気強く使ったりするなど、なりふりかまわず勝ちにいっているわけではない。勝負は矢野や赤星が復帰してからという感じで試合をしている。問題は、浅井や安藤がこの負けをどう今後に生かしていくかというところだろう。先発ショートに抜擢された関本も勉強中。星野監督は目先の勝敗とは違うところを見ているという感じがする。
◎スワローズ7回戦……1−3
先発の安藤は初回から力投、特に最初の5回は低めにコントロールされた速球が決まり、外野席から見ていてもその迫力が伝わってきた。しかし、打線は同じく新人のスワローズ石川をとらえ切れない。石川は安田、梶間と続いたスワローズ軟投左腕の系譜を継ぐ投手と見た。そして、タイガースは田淵、藤田平の時代からスワローズのこのタイプの投手に弱いという伝統を持っている。5回裏、桧山のヒットを石川の暴投などで三塁に進め、吉本のスクイズで先取点を取るが、続く6回表にランナーを三塁に進めながらも2死までこぎつけた安藤が暴投、ランナーを返してすぐに追いつかれる。このあたりから低めのコントロールが怪しくなり、ワンバウンドが増えてきた。そして8回表、1死満塁から高めにはいった球を岩村に犠牲フライにされ、さらに佐藤にこれも甘い球を打たれてタイムリー二塁打と2失点。スタミナ配分ということを痛感させられた試合だっただろう。星野監督はコントロールが甘くなってきた安藤を辛抱強く引っぱった。将来を見越した1敗といえる。
◎スワローズ8回戦……3−4
スワローズ先発の藤井から、4回裏、桧山が14試合連続安打となる2ランを放ち先制。藪は5回までノーヒットの快投。前回完封した試合を思い出し、これで勝ったと確信したが、悪い癖が出た。ストライクを急いで取りにいくパターンで、そこを狙い打ちされる。6回、真中にタイムリーを打たれ、7回にはラミレスに同点タイムリーを許し、8回には真中のホームラン。とうとう勝ち越されてしまう。いずれもカウントを整えてから不用意にストライクを取りにいったところを打たれている。特に真中のホームランなど、慎重に投げていれば食らうはずのない一発。しかし、タイガースも粘る。8回裏、プロ入り初先発出場の関本が石井から三塁打、そして片岡がレフトに犠牲フライで同点に追いつく。藪がここで踏ん張ればまだまだ勝機はあった。しかし、9回表、ペタジーニにレフト方向へ流し打ちを決められ、その打球は左中間スタンドへ。1点差をつけられ、9回石井から桧山がヒットを打ったところでマウンドには高津。後続をきっちりと抑えられて2連敗となった。
◎ジャイアンツ5回戦……7−2
井川の調子は決してよくなかった。しかし、好調時の井川をイメージしたジャイアンツは慎重に攻め過ぎて井川を立ち直らせてくれた。初回に松井のタイムリーで先制されたものの、前回やられた桑田から桧山が同点タイムリー。4回裏にはまたしても福井にホームランを打たれて勝ち越された井川だが、そのあとは持ち直し6回まで2失点で切り抜ける。5回表、クワタをつかまえたタイガース打線はホワイトの二塁打で同点に追いつく。そのあと、なんと濱中、坪井と二者連続敬遠で井川を三振に打ち取るという慎重作を取られ、一気に勝ち越しはならず。が、ジャイアンツ原監督は同点のシーンで経験の浅い酒井をリリーフに起用、アリアスがこれをつかまえる。レフトスタンドに勝ち越しの2ランホームラン。そのあとも、前田、新人の石川から打ちまくり、桧山は4安打で首位打者に躍り出る濱中は猛打賞で打撃ベストテン入りを果たすという具合。投げてはリリーフの福原が7、8回を4三振できっちり抑え、9回は伊藤で逃げ切った。ジャイアンツはタイガースを前にかなり恐れている様子。精神的に優位にたった方が有利に決まっている。首位攻防戦はまずタイガースが先手をとった。
◎ジャイアンツ6回戦……6−10
ムーアは序盤、変化球にいつもの冴えがなく、3回に二岡の2ランなどで3点を先取されてしまう。しかし、タイガースも上原をもう苦手とはしていない。4回、見事なホームラン攻勢で逆転だ。まずアリアスが1点差となる2ランをレフトに運べば、桧山はライトスタンドに同点ホームランを叩き込む。仕上げは濱中でセンター方向に完璧な当たりの勝ち越しホームラン! 流れはこちらのものという感じだったが、一つのプレイが流れを変えた。6回、福井の投手ゴロは浅井が捕球を焦りミットがバットに触れて打撃妨害となる。仁志の平凡なショート頃を、併殺を焦った藤本が二塁に悪送球。併殺のはずが一転してランナーを2人残す。川相にレフト前にクリーンヒットを打たれて同点にされると阿部のつまった当たりはセカンドの横に落ちて二塁打に、代打村田の当たりも打ち取ったものがライト前にぽとりと落ちてヒット。気がつけば4失点。いずれも打ち取っていただけに、ムーアの悔しさはいかほどか。7回裏には星野が、ホワイトの二塁打で2点差に迫った8回裏には金澤が失点を重ねてしまう。これも結局流れをつかんだジャイアンツ打線が優位に立ったために取った点であろう。浅井、そして藤本と若い選手が余裕のないプレーで相手に勢いをつけてしまった。本当に、ミスは怖い。
◎ジャイアンツ7回戦……2−9
安藤の立ち上がりは悪かった。斎藤に先制のタイムリーを打たれてしまったのも甘い球だった。しかも、浅井が足を引っぱる。斎藤が二盗を試みると焦って悪送球。初回の2点は痛い。が、タイガースに勝機がなかったわけではない。3回表、高橋尚から今岡が1点差に迫るホームランを放つと、関本がヒット、片岡は左手に死球。これでひるんだ高橋尚からアリアスがセンター前にはこんで1死満塁。目下首位打者の桧山を打席に迎えた時は、これでいけると期待がふくらんだ。期待通り、桧山はピッチャー返しの巧打。ところが、センターに抜ける当たりを仁志が待ちかまえたように捕球し、併殺に。これで高橋尚は生き返った。そして、桧山はツキを奪われたようにノーヒットで、連続試合安打は16で止まってしまった。安藤は落胆したかその直後の3回裏、自らの暴投などで2失点。さらに仁志は4回表、浅井のピッチャー返しを高橋尚が弾いた当たりを拾い上げてアウトにしてみたり、6回には伊藤から2ランを打ってみたり、5回表には関本のセンター前に抜けるかという当たりを3回と同じようにさばいてアウトにしたりと大暴れ。8回表に今岡がこの日2本めの7号ホームランを打ったが、あとが続かない。8回裏には金澤までつかまり3失点。3回の桧山の当たりがこの試合の明暗を分けたといっても過言ではない。44日間守り続けた首位の座を、とうとう明け渡すことになってしまった。
◎愛すれどTigers週間MVP
投手……福原忍 ジャイアンツ5回線での2イニング4三振の好投は、完全復活を印象づけた。先発が6、7回まで持ちこたえれば、福原、バルデスとつなぐ形が完成したと言い切ってしまおう。負けがこんだ今節、この復活は光明である。
野手……桧山進次郎 最後の試合こそツキに見放されてノーヒットとなったが、それまでの打棒は完璧の一語に尽きる。どのコースでも打ち返し、ヒットにする。昨年3割を打った広角打法が今季開花したといえる。首位打者のタイトルも夢ではないだろう。
星野監督は、「今こそ『野村の考え』にたちかえらにゃならん」とコメントした。センターラインを固め、確実に守り切る、それが基本なのだ。確かに、浅井の起用で連敗したのは痛い。しかし、シーズンはまだまだ長い。矢野の復帰まで、捕手陣はなんとかふんばってほしい。勝負は故障者が帰ってきてから、つまり6月以降どれだけ踏みとどまれるかにかかってくる。次節は最下位に低迷するベイスターズ、調子に乗り切れないドラゴンズと、カード的には恵まれている。焦らず、ひとつひとつのプレーを確実に処理していけば、勝ちは転がり込んでくるはずだ。そう、勝負はこれからなのである。
(2002年5月13日記)