愛すれどTigers


完敗

 完敗だった。
 今でも、何が起こったのか信じられない気分である。腹立たしいし、悔しい。悔しい。悔しい。思い出したくもないくらいだ。正直、結果ほどにマリーンズとの力の差があったとは思えない。あったのは、油断という隙だったのだ。負け犬の遠吠えととられるかもしれないけれど、実際交流戦ではこれほどの力の差はなく、ほぼ互角であった。だから、普段通りの戦い方をすれば勝てると、そう思い込んでいたのではないだろうか。紅白戦など実戦形式の練習をしたわけでもない。
 工夫もなかった。矢野のリードが見透かされているのならば、野口や浅井を起用して流れを変えるという手もあっただろうし、負け試合であっても毎試合JFKをつぎこんで少しでも食い止めようという気概も必要だったたろう。オーダーを変えてみるなり、控えの選手を先発で使ってみるなり、あの手この手で食い止めるべきだった。しかし、岡田監督は何ら手をうつことはなかったのである。シーズン中と同様に負け試合には橋本、江草、桟原を投入したが、このまま負けますよというサインを出しているようにさえ見えた。
 勝てないから焦る。焦るとさらに動きが悪くなり負ける。そし負ける。この悪循環を断ち切るために林など未知数の若手を起用することもできたはずだ。しかし、岡田監督は動かなかった。動いたのはマリーンズのバレンタイン監督の方だったのだ。
 完敗だった。

◎マリーンズ3回戦……1−10
 地元甲子園に帰り、ベテランの下柳が先発。これで流れが変わるかと期待したが、先制したのはマリーンズ。2回表、二塁打のサブローを暴投で三塁まで進め、ベニーのライトライナーが犠牲フライとなる。しかしその裏、小林宏を攻め、今岡のレフト前ヒットと桧山の四球でチャンスを作り、矢野の二塁ゴロが進塁打となる。関本のサードゴロを今江が一塁に送る間に今岡が生還して同点。ただ、同点にされても大丈夫という自信がマリーンズにはあったように見えた。4回表、1死満塁から里崎の当たりはショートゴロ。二塁封殺のあと、一塁に送られた送球はきわどくセーフの判定。下柳が抗議したが実らず、再びリードを許す。今江のサードゴロは当たりが悪い分今岡の送球が遅れ、内野安打となって福浦が生還し2点差をつけられた。リードされた展開だったが、6回には藤川が登板し、三者凡退で流れを断ち切ったかに思われた。しかし7回表、先頭の里崎のセンター返しの打球を鳥谷が弾いてエラーの出塁。今江の二塁打で無死二三塁とされ、代打にはフランコ。フルカウントから低めの決め球を余裕で見逃されて満塁になる。代打橋本は藤川の速球を見透かしたかのように二遊間を破る2点タイムリー。ここでウィリアムスでなく桟原を投入し、西岡のタイムリー、四球で再び満塁として福浦にライトスタンドに突き刺さる満塁ホームランを打たれた。1死も取れずに桟原は降板し、橋本に交代。橋本と能見はよく投げて残りを無失点で切り抜けた。が、タイガース打線は小林宏に6回まで抑えられ、7回裏、二番手の小野を1死一二塁と攻めたが関本の併殺でチャンスをつぶす。最後は藤田、薮田のリレーで逃げ切られ、なすすべもない3連敗を喫した。もう後がない。
◎マリーンズ4回戦……2−3
 やっとタイガースの選手たちに実戦勘が戻ってきた。しかし、時既に遅し。先発杉山は2回表にイ・スンヨプの2ランで先制されたものの、必死の投球でマリーンズ打線を食い止めようとする。相手に呑まれない気迫が感じられた。4回表、1死二塁としてマウンドを能見に譲る。能見はイ・スンヨプに二塁打を打たれて3点目を献上した。しかし、この日のタイガース打線はセラフィニに食い下がっていった。6回裏、シーツのヒットと金本の四球でチャンスを作り、セラフィニをマウンドから引きずり降ろす。二番手は小野。今岡はセンター前のつまった当たりのヒットでシーツを返す。そして代打桧山も一二塁間を破るタイムリーで1点差に。しかし、矢野は併殺であと一歩が遠い。8回裏には四番手の薮田から先頭の鳥谷が四球を選ぶもシーツが自らバントを試みてピッチャーフライ。金本と今岡の連続三振でつながらない。9回裏、小林雅から代打の片岡が四球を選んだが矢野のバントは初球ファール、2球目は三塁への小フライとなり、併殺。福原、ウィリアムス、藤川、久保田と投手をつぎこんで抑えたのだが、打線がそれを助けられなかった。4回に金本のこのシリーズ初安打が出たが、4番が4試合で1安打だけというところに今回のシリーズの苦しさがあった。

◎愛すれどTigers週間MVP
投手……杉山直久 結果は悪かった。しかし、気迫あふれる投球でマリーンズの打線が一時の勢いを止めた。そこをかう。
野手……桧山進次郎 タイムリーヒットは、タイガースが決して弱かったから負けたというのではないということを見せつけてくれた。ベテランならではの存在感というのか。

 タイガースの完敗をすべてパ・リーグの変則プレーオフのせいにしようとは思わない。タイガース側に万全の準備ができておらず、マリーンズ側にはタイガースを徹底的に研究したあとがはっきりと見られた。短期決戦の戦い方を岡田監督がしなかったというところも大きなポイントだろう。しかし、明らかに条件の違うものが試合をするということには問題があるという気持ちにはかわりはない。もともと日本シリーズというのはそのシーズン最も強かった2リーグ制のもとで、それぞれのリーグで最も強かったチーム同志の力比べを楽しむという趣向である。それがこういう形で終ってしまったということは、まるでタイガースがものすごく弱かったような印象を残してシーズンを終えたということになってしまう。なぜこんなことになってしまったのか。今年のタイガースは強かった。最後まで食らいついてきたドラゴンズを振り切り、勝ちパターンを作り上げて安定した試合を見せてきた。その力を十分に発揮できなかったのはなぜなのか。監督や選手を一方的にくさすのは簡単だし、マリーンズをほめたたえるのも簡単だ。しかし、素直にマリーンズをほめたたえられない気持ちが、私の心の中に残っている。何度でも書くけれど、タイガースはこんな負け方をするようなチームではないはずなのだ。互角以上の戦い方ができるチームのはずなのだ。
 ぼやきたいことはまだまだあるが、キリがないのでここらあたりで終ることにする。
 ああ、悔しいよ!

(2005年11月7日記)


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