今シーズンは、先発ローテーションが機能しないままに1年を終えたという印象が強く残った。キャンプ前はポスティングでニューヨーク・ヤンキースに移籍した井川投手の穴をどう埋めるかということが課題としてあげられていたが、私は福原と安藤がしっかりしていればなんとか乗り切れると思っていた。ところが両投手ともキャンプ中の怪我で1年間ほとんど結果を残すことなく終ってしまった。福原は早く復帰したものの下半身の粘りがなく打ち頃の球しか投げられなかったし、安藤にいたっては下半身の故障が治ると肩の故障が起こって、初登板は9月という誤算。開幕からのローテーションで実績のある投手は開幕投手の下柳だけということになってしまった。下柳はリリーフ陣に支えられて10勝こそあげたが、2年前ほどの余裕のある投球術はみられなくなり、味方のエラーにマウンドで怒り出すという場面さえ見られた。期待された杉山と能見はシーズン当初は結果が出ないで二軍落ちし、中盤以降復帰して好投はみせたものの投げてみなければわからないという不安定な内容が多かった。開幕当初は新外国人のジャン、ボーグルソンと新人の小嶋という未知数の戦力をあてにせざるを得なくなった。ジャンはボークを取られてはいらいらし自滅するというパターンでシーズン途中に帰国した。ボーグルソンも好不調の波が激しいだけでなく終盤にはジャイアンツの内海の頭部に四球を与えながら謝罪もしないという態度に出て、もう少しで優勝という流れを断ち切ってしまった。救世主となったのは交流戦で初先発した新人の上園で、ローテーションに入り8勝をあげて新人王に輝いた。勝利こそなかったものの2年目の岩田も一時はローテーションに入った。
今季タイガースがAクラスに入ったのはリリーフ投手陣の大活躍によるとろが大きい。JFKのフル回転は特筆すべきところだ。藤川は終盤10連投して首位奪回の原動力となり、ウィリアムスは長く防御率0点台を保った。久保田は日本記録を大きく上回る90試合登板を達成し、勝敗にかかわらず大事なところで投げ続けた。JFKにつなぐ中継ぎも2年目の渡辺が敗戦処理から始まって最後には勝ちパターンにはまった。江草は例年にない安定ぶりで、先発にまわった方が戦力になるのではないかと江夏豊さんにいわしめる活躍だった。橋本健、桟原、ダーウィンら勝敗に関係のないところでも投入される投手たちに負うところは大きい。
打線は全体に不調だった。誤算は一気に力の衰えがきたシーツ、怪我を直して逆に打撃のバランスを崩した今岡、故障の影響で持ち前の打撃センスを生かせなかった濱中らクリーンアップにはいる選手が思うように打てなかったので、打力の負担が金本一人にかぶってしまった。その金本も膝の故障もあって成績はぎりぎりのラインを保ったという感じで終った。そのため若い力の台頭するチャンスもあり、濱中に代わって5番ライトに座ったのは林である。さらに、序盤のジャイアンツ戦でサヨナラ打を打って昨年までの鬱憤を晴らすように爆発的に打ちまくった狩野、交流戦から起用されプロ入り初ホームランを放った庄田、坂、桜井とここ数年では考えられない若手の活躍が目立った。特に桜井は林の故障のあと5番ライトに入り、ファンの期待にこたえる力を見せた。
ベテランでは上園の登板で必ず起用された野口が衰えの見えた矢野を上回るリードと打撃を見せ、昨年は二軍でくさっていた葛城がシーツに代わる一塁手としてスタメンに定着して持ち前の打撃センスを発揮した。ドラゴンズを戦力外になってテスト入団してきた高橋光も後半からは好機にいい働きを見せた。鳥谷、関本、藤本がもう少し例年を上回る活躍をしていたら打線がつながっただろう。赤星は椎間板ヘルニアや首痛のために思うように働けなかった。そのため一番が固定できないという悩みも生まれた。
交流戦前には8連敗、交流戦でも挽回できなった。しかし、長期ロードを勝ち越し波に乗ると、終盤は10連勝し首位と最大12.5差で5位に沈んだチームがなんと9月には首位に躍り出るという奇跡的な巻き返しを見せてくれた。しかし、前述のボーグルソンの四球などで流れが断ち切られたあとは下位に連敗するなどして一気に調子を落し、最終的にはAクラスを確保するのがやっとという結果に終ってしまった。非常に波の大きなシーズンだったといえるだろう。
個人タイトルは、最優秀中継ぎに久保田智之投手が初受賞。40セーブを記録した藤川球児投手が最多セーブのタイトルを初受賞した。反面、規定投球回数に達した投手が一人もいなかったのが今年の状況を物語る。また、ベストナインは選出されなかったが、ゴールデングラブ賞にアンディー・シーツ一塁手が選出された。
2007年度のタイガースの戦績。74勝66敗4分、勝率.529。優勝のジャイアンツに4.5ゲーム差で今季3位。
◎愛すれどTigers年間MVP
投手……久保田智之 藤川とのダブル受賞でもよかったけれど、勝ち負けに関係なくなんでもかんでも起用され、それにこたえた鉄腕ぶりを評価したい。昨年指の骨折などで満足に結果が残せなかったのを、キャンプでの投げ込みなどで鍛え上げ、すばらしいシーズンにした。次点はもちろん藤川。いまや日本を代表する速球王として、五輪予選でもその球威のすごさを見せつけた。
野手……林威助 濱中の定位置と思われた5番ライトのポジションを実力で勝ち取った。終盤、故障で欠場したためMVPには少し弱いかという気もするが、金本を除き今タイガースファンの期待に一番応えられる打者といえるだろう。怪我の治療で来季開幕ベンチ入りが危ぶまれているが、じっくり治してほしい。次点は桜井広大だ。大器がようやく開花した。あとはその花をいつまでも咲かし続けるだけだ。
クライマックスシリーズで連敗して日本一の夢を断たれたタイガースは、オフシーズンに積極的な戦力補強を行った。FAでカープから新井内野手を獲得して5番打者を確保し、中村泰投手と交換でファイターズから金村暁投手を獲得、濱中外野手・吉野投手と交換でバファローズから積極的な走塁が売り物の平野内野手と若い阿部投手を獲得した。社会人・大学生ドラフトでも速球派の白仁田投手を指名するなど、若手投手の補強もできた。先発にもう一枚とスワローズのグライシンガー投手を獲得しようとしたがジャイアンツにさらわれた。そこでアッチソン投手とフォード外野手を米球界から獲得し、戦力整備を行った。若手の起用とともに、移籍選手との切磋琢磨がうまく行われるか、世代交代をスムーズに行なえるか、来季が岡田監督のいう「常勝チーム」になれるかどうかの正念場となるだろう。
(2006年12月25日記)