愛すれどTigers


2010年度を振り返って

 今季のタイガースは新加入の城島、マートンが打線に入ることにより厚みが加わった。右肩の負傷で金本がスタメンを外れることになったことで、外野の先発枠が広がり、新人の藤川俊をはじめとして浅井、桜井、林、葛城などがスタメンに名を連ねる機会が増えた。内野はほとんど固定であったが、平野を外野にまわした時に坂や上本、大和らが先発のチャンスを与えられてそれぞれに活躍した。期待されていた若手の台頭が少しずつ見え始めてきたシーズンでもあった。
 金本がはずれても、「平成ダイナマイト打線」の破壊力はみごとなものだった。日本新記録の年間214安打を放ったマートンとプロ入り初めて3割を記録した鳥谷が一番と三番を交代でつとめ、二番には首位打者争いをした平野が不動。四番には確実性の増した新井が座り、五番に47ホームランのブラゼル。六番には長打力のある金本か城島。七番も城島、林など強く打てる選手が入った。八番に桜井というのはジャイアンツ以上に脅威的な打順であった。ただ、夏場まではその爆発力をみせつけていたが、秋口からそれぞれに疲れが見え始め、特にプレッシャーに意外に弱いところを露呈したのが誤算だった。
 誤算といえば先発投手陣。開幕当初のローテーションはあっさり崩壊。特にキャンプ中から故障で離脱した岩田の穴を埋める選手がなかなか現れなかったのが大きかった。結局、久保を軸としたローテーションで、途中加入のスタンリッジ、年齢的にスタミナ不足の下柳、好投しつつ2勝止まりの鶴、投げてみないとわからない上園、中継ぎから転向して試合ごとに落差の激しかったメッセンジャー、看板倒れのフォッサム、減量が響いて球威をなくした安藤、高卒ルーキーでいきなり4勝の秋山。序盤から安定した内容を見せた能見が走塁中の骨折で戦列を離脱し、終盤になってやっと復帰というのも響いた。
 先発投手の不安定さは中継ぎ投手にも伝播。序盤から中盤にフル回転した西村が最も安定した内容であったが、終盤はスタミナ切れで二軍落ち。当番数の割にホールドの少なかった渡辺がフル回転。左腕の中継ぎに人を得なかったのも大きかった。実績のある江草、やっと素質が開花した筒井らに期待したが、見事に裏切られた。一時はマリーンズから急遽獲得した川崎や新人の藤原がその役割を果たしていたが、一シーズンはもたなかった。そのしわ寄せが福原、久保田ら実績のある投手にかかり、抑えの切り札藤川球が8回から登板することも珍しくなかった。その影響からか終盤には藤川球らしからぬリリーフ失敗が目立つことにもなった。アッチソンなウィリアムスの穴を埋めるだけの活躍をする投手がいないと、藤川球も安心して投げられなかったということか。打線があまりにも場屈しすぎたため藤川球の登板間隔が開くことが多かったのも何らかの影響を及ぼしたのかもしれない。
 優勝のチャンスはあった。しかし、ここ一番での勝負に弱く、また終盤は下位チームへの取りこぼしも目立った。下位チームに確実に勝っていれば優勝できただろう。
 それでも前年4位のチームが優勝マジックを出せるところまで盛り返したのだから、先発投手陣の不安定さをなんとかやりくりしてよく健闘したといえるのではないだろうか。とにかく最後まで目を離せない展開で楽しませてくれたことだけ確かだ。
 タイトルはベストナインに一塁・ブラゼル、二塁・平野、遊撃・鳥谷、外野、マートンが受賞。平野はゴールデングラブ賞も受賞し、城島もゴールデングラブ賞を獲得した。これだけ選ばれながら優勝できなかったということがもったいないシーズンという印象を残してしまうのだろう。
 矢野が故障で涙の引退。金村暁、庄田、大城らが戦力外に。高橋光が引退して二軍コーチに。しかしFAで藤井捕手を獲得し、トレードでは新井良太を、テスト入団で加藤投手を獲得した。投手陣の補強はまだ続けるべきだろう。
 勝ちながら育成という難事を果たしつつある真弓監督。いろいろと物足りなさを指摘する声はあるが、超ベテランに気を遣いつつ、若手も大胆に起用しなければならないのに、そのしんどさを顔に出さないところを私は評価したい。このまま来季も世代交代をスムーズに進めていってほしいと思わせるシーズンだった。
 全日程終了で78勝63敗3分で勝率.553。首位のドラゴンズに1.0差の2位。3位のジャイアンツとはゲーム差はなく、勝率で上回った。

愛すれどTigers年間MVP
投手……久保康友 城島の速球主体のリードが、多彩な変化球を操る久保のよさを引き出した。結果としては14勝と自己最高記録を更新。しかし、リリーフ投手の失敗がなければ最多勝争いに食いこめたと思う。安定感、完投能力など今季のエースは久保だった。
野手……マット・マートン&クレイグ・ブラゼル キャンプの時点でマートンのここまで活躍を予想した評論家がどれだけいたか。高い評価を下していたのは私の知る限り吉田義男さんと福本豊さんだけ。お二人の炯眼に脱帽。とにかく「マートン・ノート」は同僚のブラゼルも刺激し、流し打ちなどを意識してやるようになった。ホームラン王を逃したものの、甲子園を本拠にして47本の記録は「ドームラン」に助けられることの多かったラミレス以上に内容のあるものだと思う。両選手の相乗効果がチームにもたらしたものは大きい。

 来季は先発投手陣も整備されることだろうし、打線は今季ほど打ちまくるのは無理だとしてもリーグ有数の破壊力を保ち続けるだろう。秋季キャンプで野原将、森田らが頭角をあらわし、トレードで獲得した新井良太もこれを機に素質を開花させるという期待が持てる。若手の台頭と優勝という二兎を追うシーズンが続くが、ここまで真弓監督が粘り強く指導してきたことが実る年になってほしいし、そうでなければならないだろう。

(2010年12月28日記)


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