今季のタイガースは開幕前から優勝候補として名前が挙げられていた。昨季の強力打線に加えて、FAで小林宏を獲得し、藤川球につなぐ中継ぎとしての活躍が期待されたからである。岩田も開幕に間に合い、ローテーション入りが期待されたし、新人の榎田がオープン戦でその実力を見せつけていた。リリーフのトリオとしてあの2005年のJFKに対し、トリプルK(久保田、小林宏、球児の頭文字)と名付けられた。
しかし、順調に見えた開幕は、思わぬ要素で大きく遅れることになる。東日本大震災である。被災者の心情をおもんぱかり、新井労組選手会会長の活躍もあって開幕が2週間遅くなったのである。真弓監督はリハビリ途中の城島捕手を本人の申告に基づき完治したものとしてスタメン起用。これが誤算であった。膝を曲げきれない城島は、ワンバウンドするような球をことごとく後ろにそらした。このため落ちる球を武器とする投手が思い切って低めをつくことができず、特に小林宏が結果を出す前に置きにいった球を打たれて藤川球につなぐことができなくなった。久保田もまたしかり。トリプルK構想は瓦解し、中継ぎで最も信頼できるのは新人の榎田だけということになってしまった。
打線は統一球と広くなったストライクゾーンの影響で昨季の爆発力がなくなった。4番の新井はチャンスでよくダブルプレーを食らい、打点王を獲得したものの打順を6番や7番に落とされることもあった。マートンや関本が4番を打つことさえあった。ブラゼルはホームランが激減、終盤では走塁途中に足をひねって戦線離脱したりもした。マートンは打法改造が裏目に出てシーズン当初は打率が低迷。中盤から盛り返して最多安打のタイトルを獲得したが、序盤の不振がチームの足を引っ張ったことは事実である。
交流戦の途中には負け越しが11を数え、今季はもうだめかと思われたが、FA移籍の藤井彰がチームを救った。「顔しかとり得がないですが」というヒーローインタビューでファンの心をつかんだだけでなく、どんなワンバウンドでも必ずおさえ、落ちる球を投手陣は思い切って使えるようになった。
鳥谷も守備の際に突き指をしてしまうなど苦しい時もあったが、2年連続三割と最高出塁率のタイトルを手にした。しかし、チームに勢いをつけるところまでいかなかった。
先発投手陣は能見、岩田、スタンリッジ、メッセンジャーが固定。怪我で途中離脱した久保や若手の鄭凱文、鶴、秋山らが期待を裏切ったが、ロー手投手は安定した力をシーズン通しておおむね発揮できたと思う。
それでも藤井彰が捕手としてレギュラーに定着してからチーム状態は上昇し、勝率を五割に戻し、優勝争いに食い込むようになった。ただ、終盤になり息切れ、Aクラスからも転落した。真弓監督の采配ミスが目立つようになり、ファンは心ない野次をとばすようになった。しかし、罵声を浴びながらも俊介、上本、森田、柴田、小宮山ら若手を積極的に起用し、経験を積ませた。特に満塁落球という大きなミスをした柴田を、それでも辛抱強く使い続けて来季に最も期待できる選手としてファンにアピールできるまでになった。こうと決めたら梃子でも動かない辛抱強さが実ったのが若手起用なら、裏目に出たのが小林宏や城島の起用法だったのではないか。
優勝どころか4位に甘んじ、真弓監督は責任を取って辞任。新監督に和田打撃コーチが就任した。
タイトルはベストナインに二塁・平野、遊撃・鳥谷、外野、マートンが受賞。鳥谷と平野はゴールデングラブ賞も受賞した。打点王に新井貴、最高出塁率に鳥谷、最多安打にマートン、最多セーブに藤川球。これだけ選ばれながらBクラスという結果では、辞任もやむを得まい。。
下柳、葛城、桜井らが戦力外に。上園と交換でイーグルスから松崎を獲得したが、何よりも大きな補強はドラフト1位で慶應義塾大の伊藤隼を獲得したことだろう。未来の主軸として期待が持てる。
クールな真弓監督に対し、和田新監督の打ちだしたスローガンは”熱くなれ”。タイガースというチームを知り尽くした新監督がどこまで選手たちの気持ちを奮い立たせることができるかに注目したい。
全日程終了で通算68勝70敗6分の勝率.493。首位ドラゴンズとの差は9.0ゲームで4位。
愛すれどTigers年間MVP
投手……榎田大樹 不安定だった中継ぎ投手陣の中で、新人ながら藤川球の前を任せれる活躍。前評判以上のクレバーな投球でチームを救った。来季は先発転向を噂されるが、どのポジションでも結果を出してくれることだろう。
野手……藤井彰人 城島の故障離脱で、控え捕手の藤井彰人が主役に躍り出た。キャッチング、リードとも投手陣の信頼をつかみとった。藤井彰の経験がチームを救ったのである。
4位という結果は厳粛に受け止めなければならない。それでも選手を信頼し、裏切られても頑固なまでに沈黙を貫き通した真弓前監督に「お疲れ様」の一言を届けたい。メンバー的に、来季優勝争いに加われると信じているので、和田新監督にはその力を発揮できる環境を整えてほしいものである。
(2011年12月27日記)