監督が和田豊にかわった。少しスパイスを加えれば優勝が狙えると語った。「熱くなれ!」というスローガンがそのスパイスのはずだった。しかし、和田監督が「熱く」なることがなく、打線はいつまでたっても沈滞気味で、上向くことがなかった。
マートンが故障で開幕に間に合わず、伊藤隼をスタメンで起用したものの開幕からプロのスピードについていけずすぐに二軍落ち。復帰したマートン、四番の新井貴はチャンスで打てず、ブラゼルは売り物のホームランの数が伸びなかった。肩に不安を残す金本を四番に起用せざるを得なかった。
それでも投手陣は踏ん張った。能見、メッセンジャー、スタンリッジ、岩田、安藤らの先発投手陣はそれぞれが責任回数を投げ、3点以内に必ず抑えた。しかし、打線がその好投を見殺しにする場面も多かった。夏場までにずっとそういう緊張感のある投球を続けていた疲れからか、後半戦になると先発投手が踏ん張り切れない場面も見られた。それでも、投手陣は責められない。藤川球は2度も故障で二軍調整を余儀なくさせられた。榎田も昨年の疲労からかひじの故障に悩まされた。加藤、筒井ら左腕のリリーフ陣がよく投げた。リリーフ陣も責められるほどひどい成績を残したわけではなかった。
交流戦までは、それでもなんとか5割の線をなんとか保つことができた。しかし、交流戦でいきなりファイターズとバファローズに4連敗し、ここから歯車が完全にかみ合わなくなっていった。悪循環が続き、不振の主力にかわって後半戦は一二番に上本、大和を固定し、四番に新井良をすえて、打線の形ができた。まだまだ経験不足ながら、来季に向けて希望の持てる活躍を見せてくれた。
深刻なのは捕手だった。城島はキャンプから一塁に専念し、正捕手となった藤井彰はバントの際に顔面に死球を受け骨折のために長期の戦列離脱を余儀なくされた。若竹と交換で急遽ファイターズから若い今成を獲得したが、リード面での課題が残った。強肩の小宮山もリード面では相手に読まれてしまう単調さが目について、まだまだ1年を通じてホームをまかせられるところまで成長するところを見せられなかった。
秋風が吹くころ、和田監督は若手投手を先発で起用しはじめた。二神、秋山、歳内、岩本らが期待を背負ってマウンドに上がり、岩本は初登板から2連勝して来季へのアピールをした。
ただ、Aクラスが厳しくなってきた時点でスパッと若手に切り替えたのではなく、ベテランとの併用という形にならざるを得ないのは、勝つことを求められているというプレッシャーからくるものだったのかもしれない。終盤になって、やっと野原将や中谷、森田、伊藤隼らをスタメンに起用したが、夏場にベテラン勢が不振に陥った時にそうすべきだった。
新井貴は右ひじ痛を隠してプレーし続けたが、もはや三塁を守ることができず、新井良に定位置を渡し、一塁で起用され、ブラゼルがはみ出す形になった。平野も上本にセカンドの定位置を明け渡し、外野としてしか起用されなくなった。
かくしてタイガースは1997年以来の5位でシーズンを終了した。
金本と城島が引退し、藤川球はFAでアメリカのシカゴカブスに移籍、平野もFAで古巣オリックスに去った。ブラゼルは退団となった。
ドラフトでは高校球界ナンバーワンの藤浪を獲得し、将来の四番候補となるだろう北條も獲得に成功した。打線強化のために、アメリカ球界から新外国人コンラッド、西岡、福留を獲得し、FAで日高が移籍してきて課題の捕手の補強もした。しかし、その分せっかく今季活躍した新井良や上本のポジションがなくなることが予想される。
シーズン途中に就任した中村GMの作りたいチームの姿が見えてこない。
コーチについては育成に定評のある水谷、河村といった打撃コーチを招聘している。つまり、若手の育成を重視した布陣をしいたというわけだ。
金本や城島、藤川球にかわるスター選手を自前で育成できるかどうか。今季の終盤に起用した若手選手がその鍵になるだろう。今季の成績には不満は残る。しかし、また新たな黄金時代を作るための試練の年だったという位置づけになってほしい。
今季のタイガースの成績は55勝75敗14分。勝率.423で、5位。ジャイアンツとの差は31.5ゲーム。
タイトルホルダーは能見投手の奪三振王のみ。ベストナイン、ゴールデングラブともタイガースから選ばれることはなかった。新井良が特別表彰を受けたのが、今年のタイガースを象徴していた。
愛すれどTigers年間MVP
投手……ランディ・メッセンジャー 外国人投手としては久しぶりに2年連続の二ケタ勝利をマーク。年間通じて安定した投球を披露してくれた。強い速球と大きなカープのコンビネーションが冴えた。来季も先発投手陣の一角としてチームを支えてくれそうだ。
野手……新井良太 昨年まで、ドラゴンズ、タイガースで二軍半。キャンプでは声の大きさだけでMVP。そんな男が、沈滞気味のチームの中でその大きな声とともに元気を与えてくれた。ここぞという場面でボールに食らいつき、そして思い切りバットを振り切った。ブラゼルと並んで数少ない二ケタ本塁打を記録し、終盤は兄にとってかわって四番に座った。来季は福留やコンラッドといったあたりとの競争になるが、大声MVPから這い上がった根性で定位置を確保してもらいたい。
藤浪、北條、田面、小豆畑らドラフト組の加入、中谷、西田、森田、野原、伊藤隼ら若手野手や、秋山、歳内、岩本、松田ら若手投手の成長。来季のタイガースへの期待は、私としては西岡、福留、日高よりもこちらの方が高い。西岡はまだベテランというキャリアではないので、新井良とともに若手を引っ張っていってほしい。選手の大きな入れ替えで、チームは変わるだろう。来年の今ごろ、私たちファンの前にどのような姿でそれは現れているだろうか。
(2012年12月29日記)