愛すれどTigers


2019年を振り返って

 矢野新監督のもと、「ぶち破れ! オレがヤル」をスローガンに、前年最下位から一気に優勝を狙う姿勢を見せた。新戦力はFAでバファローズから移籍してきた西、シーズン途中に石崎との交換でマリーンズから移籍した高野、ドラゴンズから移籍のガルシア。新外国人は中継ぎ投手としてジョンソン、右の大砲候補としてマルテが加入した。新人ではドラフト1位の近本と3位の木浪が開幕一軍スタート。オープン戦で打ちまくった木浪はショートの開幕スタメンを勝ち取り、一番木浪、二番近本というフレッシュな開幕となった。ただ、期待のマルテは故障で開幕には間に合わず、代役としてナバーロがオーダーに入ったが、昨年見せた広角打法が見られず、早々と二軍落ちした。そして目玉は四番固定の大山。生え抜きの四番を育てるというビジョンを掲げた。
 開幕から打ちまくったのが近本。盗塁も積極的に試み、一番打者としてセンターのポジションを確定させた。木浪は逆に開幕からヒットが出ず、ショートは北條との併用という形が多くなった。新加入の清水ヘッドコーチがプレミア12の試合で明るくプレーする中南米のチームからヒントを得、選手たちはヒットを打つとガッツポーズをし、矢野監督を筆頭にベンチの選手たちもガッツポーズでこたえるという「矢野ガッツ」はシーズン終わりまでベンチに一体感を持たせ、先シーズンいささか委縮気味だった若手たちがのびのびとプレーする様が見られた。
 先発投手陣は当初、開幕投手のメッセンジャー、西、ガルシア、岩貞、青柳でまわしていたが、ガルシアはドラゴンズ時代とは打って変って大量失点で早々と降板する試合が続いて二軍落ちに。岩貞はインフルエンザを発症し、その後わき腹の肉離れで戦列復帰はシーズン終盤までずれ込んだ。メッセンジャーは開幕からしばらくはゲームを作っていたが、浅い回に打たれるケースが続いて二軍へ。小野と才木は肩を傷めてほとんど一軍での出番はなし。結局、西と青柳を中心に高橋遥、秋山、望月、岩田らがローテーション投手の任についた。西は打線の援護がなくなかなか勝利投手になれない登板が続いたが、最終的には10勝。青柳は9勝をあげ、規定投球回数に達した。
 踏ん張ったのはリリーフ陣。岩崎がインフルエンザで離脱する時期もあったが、復帰後はフル回転。能見、藤川、ジョンソンに加え、不調の桑原と高橋聡に代わり守屋と島本が負けパターンでも勝ちパターンでも押さえる重要な役割を果たした。特に新加入のジョンソンの働きは目覚ましく、オールスターにも選ばれた。ドリスはクローザーとしては不安定な投球をすることが多く、外国人枠の関係で二軍落ちしてからは藤川がクローザーとして往年の速球を復活させ、まさに守護神と呼べる活躍を見せた。
 打線は序盤は梅野が絶好調で、サイクルヒットを達成。糸井はホームランこそ少なかったが常時三割を維持し三番打者の任を果たした。しかし後半戦は盗塁の際に足を痛めて登録抹消。福留、マルテが四番大山の周りを固める形ができた。ショートは木浪と北條が定位置を争い、糸井や福留のかわりに代打満塁サヨナラホームランを放った高山が先発起用されることが多くなり、新人としてのシーズン安打記録は長嶋を上回る158安打を記録し盗塁王に輝いた近本がセンターの定位置をつかんだ。しかし大山はそれなりの結果は残したが四番打者としての存在感は薄く、ついに8月以降はマルテにその座を明け渡し、三塁のスタメンも北條に譲ることが多くなった。
 緊急補強した新外国人選手のソラーテは来日当初はいきなりホームランを放つなど大きな期待を抱かせたが、守備位置が固定できずエラーも重なり打撃不振に陥ると、二軍で調整ののち久々に一軍に上がってきたところで「モチベーションが上がらない」という理由で出場を拒否し、そのまま帰国、退団となった。打てないから最初の構想になかった新外国人に頼るという迷いからか、ここからチーム成績もだんだん落ちてきた。
 そのような中での光明は、1月に大腸がんであることを公表した原口の復帰だった。交流戦ではサヨナラヒットを放つと、オールスターのプラスワン投票に選出され、2試合連続のホームランでファンを沸かせた。またオールスターでは近本が新人初のサイクルヒットを記録し、MVPを獲得した。
 9月に入り、ドラゴンズの大野雄にノーヒットノーランを許すなど、打線は低迷したが、カープが最終戦を落としたおかげで残り6試合全勝すれば3位に入れるというところから力を出した。毎試合自慢のリリーフ陣をつぎこみ、最少失点でしのぐと、打線もそれにこたえてつながりを見せ、「奇跡の6連勝」でAクラスにすべりこんだ。
 クライマックスシリーズ・ファーストステージでベイスターズを破ってファイナルステージまで進んだが、勢いもそこまで。さすがに毎日のように登板してきた中継ぎ陣にも疲れが見え、ジャイアンツに1勝のみで終わり、日本シリーズ進出はならず。しかし、選手たちが勝つ喜びと負ける悔しさを実感できるAクラス入りとポストシーズンであった。
 今季の表彰選手は、最多盗塁と新人特別賞に近本、ウエスタンリーグ最多勝に秋山、ウエスタンリーグの最優秀投手賞と優秀選手賞に馬場、セントラルリーグ特別表彰に原口。ゴールデングラブ賞は投手の西と捕手の梅野が受賞した。
 2019年のタイガースは、69勝68敗6分で勝率は.504で3位。クライマックスシリーズはファイナルステージに進出した。チーム防御率とチーム盗塁はリーグ最多。

愛すれどTigers年間MVP
投手……藤川球児 火の玉ストレートが戻ってきた。40歳でさらなる進歩をなし得るのだからすごい。特にドリスが二軍落ちしてからは、本来のクローザーのポジションにまわり、リリーフ失敗はなし。日米通算250セーブを視野に入れた。リリーフ陣では、島本、ジョンソンが安定感を見せたが、ここぞというところではやはり球児の存在感が大きかった。
野手……近本光司 新人王こそスワローズの村上に譲ったが、新人選手のリーグ最多安打記録を塗り替え、36盗塁で盗塁王のタイトルをとり、タイガースでは坪井以来の新人特別賞を受賞した。昨年のドラフトで「外れ外れ1位」で入団し、各球団からノーマークだった男がここまでやるとは誰が想像しただろうか。今季の矢野タイガースを象徴するような存在となった。

 2年目を迎える矢野監督は、ドラフトで5人の高卒選手を指名。いずれも甲子園で活躍した注目株。数年後を見越しての使命だろうから、来季は現有戦力の底上げを確信しているのではないか。メッセンジャー、高橋聡、そして脳腫瘍からの復帰を目指した横田が引退。山崎、岡本、小宮山、森越、歳内ら一軍での実績はあるが結果を出し続けられなかったベテランや中堅が戦力外となった。しかし、ホークスから中田を無償トレードで獲得し、新外国人のボーア一塁手とも入団合意に達した。残るは米国復帰を希望するジョンソンとドリスの去就だ。もし両名が退団ということになれば、日本球界で実績を残した外国人投手を獲得する方向で進むようだ。しかし外国人に頼らないチーム作りを矢野監督には期待したい。

 最後に、鳥谷敬について書く。
 今季の鳥谷はショートでのレギュラーを奪うべく、木浪、北條との競争となった。そしてオープン戦での結果、木浪が開幕スタメンを勝ち取った。木浪が開幕からヒットが出なくても、矢野監督はすぐに北條や鳥谷に切り替えることはしなかった。木浪のオープン戦で見せた打力を見て、我慢して打つまで使い続け、木浪もそれにこたえる結果を出した。左打者の木浪は、左腕投手が先発の試合には北條にスタメンを譲った。同じ左打者である鳥谷にチャンスはなかった。先発出場した試合はほんのわずか。守備ではさすがというところを見せたけれど、打撃面では結果を出せなかった。鳥谷のチーム内でのポジションは代打となったけれど、桧山や八木のように代打に徹することができなかった。必要とされるポジションで結果が出ない場合、鳥谷でなくとも二軍落ちは免れないが、矢野監督は練習での姿勢などが若手の手本となると見たか、あるいは球団の功労者というところを勘案したか、打席に向かう時のファンの歓声をきいて「ファンを喜ばせる」というためにベンチに入れておいたのか、とにかく二軍に落とすことはしなかった。いや、おそらく鳥谷は二軍に行けばコーチのような立場に立ってしまう。二軍でも居場所はないと判断したのかもしれない。
 鳥谷は引退勧告を受けた。そう、タイガースにいる以上、大幅に年俸を下げても高給取りになってしまう。ベンチウォーマーのために億単位の年俸を出すことはできない。鳥谷が引退勧告を受けたのはやむを得ないと、私は思う。功労者である戦力外通告をするような真似はしたくなく、タイガースの鳥谷として引退し、花道を作ろうという球団の温情だったと、私は見た。しかし、鳥谷はまだ現役を続けたかった。となると、タイガース以外のチームでプレーする以外に選択肢はない。マリーンズやベイスターズが興味を持っているという報道もあったが、現状ではまだどのチームとも契約していない。ドラフトも終わり、新外国人選手との契約も次々と始まっている現段階で、だ。
 鳥谷は渡米してメジャーリーグに挑戦すべきなのかもしれない。夢破れたとしても、いずれ指導者としてタイガースに戻ってきてほしい。できればNPBでのキャリアはタイガースで終えてほしいというのが、今の私の偽らざる気持ちである。

 ついでに、新庄剛志が現役復帰宣言をした。タイガースは話題作りだけでいいから新庄を獲得してほしいと私は思う。客寄せパンダでもいい、新庄の破天荒なキャラクターこそ、来季のスローガンである「It'勝(笑)Time!」にぴったりではないか。鳥谷の退団で空いた背番号1を、今度は新庄が背につけてファンの度肝を抜くようなパフォーマンスを見せる。そんな場面を想像するだけで楽しいではないか。

(2019年12月2日記)


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