一月、矢野監督は「今年は日本一になることが決まってます」とぶちあげた。これはキャンプ中のインタビューでも「今年は優勝するんやから」と優勝は既定の路線であるかのように繰り返していた。矢野監督は読書家で、特に自己啓発系の本を愛読していると聞く。つまり、最初から「優勝する」という意識を選手にすりこませるために繰り返していたのだろう。
フロントもそれにこたえるように外国人選手の補強を積極的に行った。引退したメッセンジャー、途中帰国のソラーテ、打力不足のナバーロにかわり、メジャーでも通算92本のホームランを放ち、マーリンズ時代はイチローと神戸で自主トレを行うなど日本での生活の経験のあるジャスティン・ボーア、韓国KIAで打点王を獲得したジェリー・サンズ、メジャーでもリリーフ専任だったジョン・エドワーズ、メジャー経験ないが、コントロールのよいジョー・ガンケル、ホークスで先発、リリーともに実績を残していたがトミー・ジョン手術の間に成績が悪化していたロベルト・スアレスを新規に獲得し、残留したジェフリー・マルテ、オネルキ・ガルシア、呂彦青を加えた8人の外国人選手を擁することとなった。
ドラフトでは1位西純矢、2位井上広大、3位及川雅貴、4位遠藤成、5位藤田健斗と将来有望な高校生で固め、即戦力として期待できるのは6位の小川一平だけ。外国人選手の大量補強はそういったドラフト戦略の補填という意味合いもあるだろう。
オープン戦ではセ・リーグのチームではトップの成績でシーズンに入ることになると思われたが、新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言が出、開幕は遅れに遅れた。その間、藤浪、伊藤隼、長坂が感染し、自主練習もままならない状態となった。それでも無観客、しかも開幕から5カードがロードという条件ながら、明日の開幕を迎えられ、ファンとしては嬉しいの一語に尽きる。オールスター戦、交流戦は中止となり、セ・リーグはCSも中止にした。120試合という規定ぎりぎりの試合数でペナントレースを戦うことになった。延長戦は10回までで打ち切られ、引き分け数が優勝の鍵を握ることになる。
これでがぜんタイガースが有利になってきた。先発ローテーションは西勇、青柳、ガルシア、秋山、岩貞、ガンケルという形で始まることになる。故障で二軍スタートとなった高橋や、藤浪、飯田、中田がそこに割ってはいろうとしている。小野、才木、浜地といった過去にある程度の実績を残した若手がどこまで食い込んでいけるかが楽しみだ。リリーフ陣は出遅れていた岩崎、島本、桑原に加え、谷川、守屋、新人の小川もブルペン入りは間違いない。そしてセットアッパーとしてスアレス、エドワーズが機能し、抑えの藤川につなぐという「負けない」布陣を敷けることができる。こと投手陣の層の厚さではタイガースはリーグ1なのではないだろうか。
今季限りの特別ルールで一軍登録できる外国人枠が一つ増えたため、スアレス、エドワーズをベンチ入りさせながら、ガルシアやガンケルを先発投手として一軍登録できるのも有利なところだろう。さらに豊富なとリリーフ陣のおかげでマルテ、ボーア、サンズを同時に一軍登録することも可能だ。開幕当初はサンズ、ガンケル、呂彦青が二軍スタートとなるが、120試合の間には何が起こるかわからない。
野手ではショートの競争が激しい。木浪と北條の同級生競争に加え、植田もレギュラー候補として打力をのばしてきた。三塁マルテと大山、二塁は糸原と上本、外野は福留、糸井の両ベテランをうまく休ませながら、高山や江越などを積極的に起用できる。中谷も含め、これらの若手が実力でベテランから定位置をもぎ取るような活躍を期待したい。捕手は梅野、坂本、原口と、それぞれ持ち味の違う三者による熾烈な正捕手争いが見られそうだ。捕手の手薄なチームに行けばこの三者はすぐに正捕手として起用されるだろう力を備えている。一塁は当面はボーアで固定されそうだが、左投手が苦手なボーアに代わってマルテが入るという布陣も可能だ。
月刊タイガースの5月号の表紙は、無人の甲子園球場の芝の上におかれたボールをアップで写し、「『あたりまえ』の幸せ」と白抜きの見出しが大きく書かれたものだった。新型コロナウィルスの影響で、「あたりまえ」のものが「不要不急」として排除されていった。春の選抜、夏の選手権と甲子園での高校野球大会はいずれも中止。選抜に出場予定の高校による代替試合が行われるが、各校一試合ずつで優勝を決める性質のものではない。そのような中で、無観客とはいえプロ野球が帰ってくる。矢野監督の胴上げを見られると思うと、わくわくしてくる。
さあ、いよいよ開幕だ!
(2020年6月18日記)