愛すれどTigers


2021年を振り返って

  ドラフト1位の佐藤輝、2位の伊藤将、6位の中野、7位の石井大がキャンプ、オープン戦と力量を発揮し、開幕一軍入り。石井大は途中で打ちこまれて一軍と二軍を行き来するが、他の3人は主力として活躍した。金銭トレードでジャイアンツから移籍してきた山本もサヨナラ打を打つなど、守備以外でも活躍。外国人選手ではマルテ、サンズ、スアレス、ガンケルの残留組に加え、ロハスJr.、アルカンタラ、チェンの8人態勢を今季も維持した。
 正捕手の梅野は得点圏打率のリーグ上位をキープし、投手のリードでも、相手の裏をかいて投手陣を引っ張った。
 開幕戦ではスワローズに3連勝。佐藤輝はホームランを量産し、特に横浜スタジアムの場外弾、メットライフドームでの1試合3発、プロ入りはじめて4番に座ると満塁ホームラン。とにかく度肝を抜かれた。伊藤将は相手打者のタイミングを外す投球術でローテーションの一角を守り抜いた。中野は打撃不振の木浪にかわりショートのポジションに定着し、盗塁を積み重ねた。代打陣は原口と糸井で両名ともなかなか調子が上がらなかった。それをカバーしたのが代走メンバー。熊谷、植田、江越。とにかく代走に出たら貪欲に次の塁を狙い、相手投手の気をそらせた。
 開幕投手の藤浪は残念ながらローテーションから外れてしまったが、先発投手陣では西勇、青柳、伊藤将、秋山、ガンケルのローテーションは安定していた。不安があるとすれば中継ぎで、岩貞、エドワーズ、藤浪、石井大、齋藤らを起用していったが、ある程度安定していたのが馬場ひとりというのは少々心もとなかった。
 前半戦は近本、糸原、マルテ、大山、サンズ、佐藤輝、梅野、中野という固定された打順がつながり、課題だった交流戦も勝ち越し、投打がうまくかみ合っていた。特に近本がどんどん打率を上げていき、糸原が走者を進めると、マルテ、大山、サンズ、佐藤輝の誰かが返す。佐藤輝が打てないときはカバーするように梅野が打つ。中野が出て投手が送り、近本、糸原マルテが返す。コロナ禍で来日の遅れた新外国人のロハスJr.やアルカンタラをあわてて一軍に昇格させる必要もなかった。
 佐藤輝はチーム記録だった新人選手のホームラン数を破った。このままいくと清原や桑田武の新人記録を抜くだろうと誰もが思った。しかしプロの世界は厳しい。内角を厳しく攻められ、後半戦は打撃不振に陥り、ホームランはおろか、ヒットすら打てなくなって二軍降格も経験した。つまり、「2年目のジンクス」を1年目の後半戦で経験したかのようだった。佐藤輝と歩調をを合わせるかのように、サンズも不振に陥り、二軍へ。そのままCSになっても昇格はなく、結局そのまま退団となった。
 投手では西勇がプロ通算100賞を目の前にして足踏みを続け、エースの座を青柳に譲ることとなった。エドワーズにかわり、アルカンタラが中継ぎにまわるなど、外国人選手の起用法も難しくなった。開幕当初はローテーション投手として期待されたチェンは1勝したのみで二軍落ちし、一軍に戻ることはなかった。
 苦しくなってきた後半戦であったが、驚くことにカープに3連敗した時も首位の座を明け渡すことはなかった。2位で追うジャイアンツもまた決め手がなく、それこそ「アキレスと亀」の例えのようにあとから追う者が追いつくことができない。
 終盤、高橋が故障から復帰して完封するなど、先発投手も安定してきた。中継ぎでは若い及川、小川が台頭し、岩崎につなぐ役割を果たすようになった。
 それでも最終盤に首位の座をスワローズに明け渡した後は一進一退が続き、ジャイアンツの脱落もあってスワローズとのデッドヒートとなった。打撃不振やリードが相手に読まれるという疲れの見えた梅野にかえて坂本を捕手として起用した終盤では投手陣が安定し、最後までスワローズに食らいついていたが、最終戦に敗れて優勝を逃した。
 今季通算77勝56敗10分で勝率.579で2位。優勝ののスワローズとはゲーム差なし。77勝は両リーグを通じて最多。
 タイトルホルダーは最多勝利、最高勝率の青柳、最多セーブのスアレス、最多安打の近本、盗塁王の中野。ベストナインは一塁手マルテ、外野手近本。ゴールデングラブ賞は近本外野手。新人特別賞に佐藤輝と中野。セ・リーグ功労賞に今季限りでマリーンズで引退した鳥谷。二軍では村上が最多勝など投手タイトルを総なめ。井上が打点王に輝いた。また、平田二軍監督がファーム新記録となる18連勝を達成したことで特別功労賞を受賞した。
 クライマックスシリーズではファーストステージでジャイアンツに連敗し、ファイナルステージにも進出できなかったが、公式戦で燃え尽きたナインにそれ以上を求めるのは酷だった。近本はふくらはぎを痛めていたし、大山も故障を抱えたままの出場だった。

愛すれどTigers年間MVP
投手……ロベルト・スアレス 絶対的守護神としてほとんどリリーフでの失敗がない。ホームランを打たれない。こんなに頼りになるクローザーは他のチームにはいなかった。スアレスにつなぐことができれば、勝利は確定的だった。残念ながら来季は米国パドレスと契約。スアレス不在の来季は今季のような戦いができなくなる。米国での活躍を祈りたい。
野手……近本光司 足を痛めていたため、盗塁王は中野に譲ったが、ぶっちぎりの最多安打と、リーグ2位の盗塁でチームを引っ張った。守備範囲も広くなり、外野からの返球も正確になってきた。来季は首位打者をぜひ狙ってほしい。

 タイガースが勝ち進めたのは9回打ち切り延長戦なしという特別ルールのおかげであったが、逆にそのルールのおかげで引き分けの多かったスワローズに逆転されたのだから、なんとも言いようがない。勝利数では上回っていたのだ。おそらく、優勝争いをしていたジャイアンツを失速させた段階で油断が生じたのだろう。まさかスワローズが終盤に来てここまで追いこんでくるとは誰も予想してなかったのではないか。いわばスワローズは漁夫の利を得たようなものである。なぜなら、スワローズはタイガースとジャイアンツには大きく負け越したが、Bクラスの3チームには大きく勝ち越しているからである。直接優勝争いをしているチームにこれほど負けて優勝したチームは珍しい。上位と当たらない平幕力士が星を重ね、終盤戦に上位と当てられて勢いで勝ち、たまたま優勝したようなものだと私には思われる。しかし、勝てば官軍でスワローズの高津監督は名将みたいに祭り上げられているけれど、昨年は同じチームを率いて最下位だったのだ。3年連続Aクラスの矢野監督を叩くメディアやファンは、昨シーズンの高津監督までほめたたえるのだろうか。
 タイガースはよくやった。ただ、最終的に流れをつかむことができなかった。非常に悔しいし、残念である。

(2020年12月28日記)


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